内分泌疾患とは~「ホルモンの異常」がもたらす多彩な病態~
内分泌疾患とは、体内で産生される「ホルモン」の量や働きに異常が生じることで、身体の恒常性(バランス)が崩れ、多様な症状を引き起こす病気の総称です。主に甲状腺、副腎、下垂体、性腺、副甲状腺などの内分泌臓器が関与します。

日本内分泌学会 HPより転載

ホルモンは微量でありながら、代謝、体温調節、成長・発達、血圧や血糖の調整、性機能、ストレス応答など多くの生理機能を制御しています。したがって、分泌量が過剰になっても不足しても、全身にさまざまな影響が及びます。
他の臓器疾患と異なり、内分泌疾患では「どこの臓器が悪いのか」が一見わかりにくいという特徴があります。たとえば肺炎では咳や発熱があり「肺」が原因とわかりますが、内分泌疾患では「倦怠感」「体重の増減」「むくみ」「月経異常」「気分の落ち込み」など、原因が多様かつ非特異的な症状として現れます。
このように、内分泌疾患は症状からは気づきにくく、まず疑い、適切な検査を行うことが診断の第一歩となります。診断がつけば、ホルモンの補充療法や腫瘍に対する外科的治療、薬物療法など、原因に即した治療により改善が期待できます。
以下に、代表的な内分泌疾患について概説いたします。気になる症状がございましたら、まずはかかりつけ医にご相談いただき、必要に応じて当科へのご紹介をご検討ください。
下垂体の病気について
下垂体は脳の奥深く、視神経のすぐ下に位置する小さな臓器で、全身のホルモンバランスを調整する「内分泌の司令塔」として重要な役割を果たしています。ここからは、成長ホルモン(身長や代謝に関与)、副腎や甲状腺、性腺などを刺激する各種ホルモンが分泌されています。

イラストACより非営利目的使用
下垂体にホルモン産生腫瘍が生じたり、機能が低下すると、以下のような病気が起こります。
- 先端巨大症
成長ホルモンが過剰に分泌される病気です。顔つきの変化、手足の肥大により指輪や靴のサイズが合わなくなる、関節痛やいびき、高血圧・糖尿病の悪化などが見られます。 - プロラクチノーマ
プロラクチンというホルモンが過剰に分泌される良性腫瘍です。女性では月経異常や妊娠出産と無関係な乳汁分泌、男性では性機能低下などを起こします。
- 下垂体機能低下症
下垂体の機能が低下し、複数のホルモンが不足する病気です。倦怠感、食欲低下、体重減少、うつ症状、性機能低下など多彩な症状を呈します。
- 尿崩症
抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌が障害され、1日数リットル以上の多尿や強い口渇、夜間頻尿がみられます。
いずれも検査によって診断がつけば、薬物療法や必要に応じた外科的治療により改善が期待できます。
副腎の病気について
副腎は左右の腎臓の上にちょこんとのっている小さな臓器ですが、生命維持に欠かせない重要なホルモンをいくつも分泌しています。副腎は「皮質」と「髄質」の2つの部分から成り、それぞれ異なる役割を担っています。
副腎皮質からは「コルチゾール」「アルドステロン」「副腎アンドロゲン」が分泌され、ストレスへの対応、血圧や体液の調整、代謝や性機能の維持に関わっています。副腎髄質はアドレナリンやノルアドレナリンといった、交感神経系に関係するホルモンを分泌しています。イラストACより非営利目的使用
この副腎に腫瘍や機能異常があると、次のような病気が起こります。
クッシング症候群
コルチゾールが過剰に分泌される病気です。顔が丸くなる(満月様顔貌)、体幹の肥満、皮膚の赤い線(紫斑)、筋力低下、糖尿病や高血圧、骨粗しょう症、うつ症状などが見られます。副腎や下垂体に腫瘍がある場合が多く、手術やホルモン抑制薬が必要となります。副腎皮質機能低下症(アジソン病)
コルチゾールが不足することで、強い倦怠感、低血圧、体重減少、吐き気、発熱時やけがの際に意識障害を起こすこともあります(副腎クリーゼ)。早期に診断し、コルチゾールの補充治療を行うことが重要です。原発性アルドステロン症
アルドステロンが過剰に出ることで、血圧が高くなり、場合によっては血液中のカリウムが低下します。高血圧の患者さんの中にもこの病気が隠れていることがあり、見つけることで適切な治療(薬物療法または手術)につながります。- 褐色細胞腫・パラガングリオーマ
副腎やその周囲の神経節にできる腫瘍で、アドレナリンやノルアドレナリンが過剰に分泌されると、発作的な高血圧、頭痛、動悸、発汗などが起こります。これまで非常に稀な病気とされていましたが、CTスキャンなど画像診断の発達で、腫瘍が小さい無症候性の段階で見つかることも増えてきています。10%程度に潜在性に悪性の経過を示すとされ、手術が必要です。
- 副腎偶発腫
他の画像検査中に偶然見つかる副腎の腫瘍です。高齢者の数%に認められることが明らかになり、多くは良性かつ非機能性で手術不要で経年的な画像フォローアップが可能な反面、一部には機能性腫瘍や悪性腫瘍が隠れていることもあるため、サイズや性状に応じた評価が必要です。
当科では、これらの病気に対し、ホルモン検査や画像診断を駆使して的確に診断し、内科的・外科的治療の方針を専門的に判断しています。甲状腺の病気について
甲状腺は、のどぼとけのすぐ下、気管の前方に位置する蝶のような形をした小さな臓器です。
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ここから分泌される甲状腺ホルモンは、体の代謝を調整する重要な役割を担っており、エネルギーの消費や体温の維持、心臓や腸の働きにも影響します。甲状腺の病気は、ホルモンの分泌が多すぎる「機能亢進症」、逆に少なすぎる「機能低下症」、さらにしこり(結節)や腫れ(腫大)を伴うものに大別されます。
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎など)
甲状腺ホルモンが過剰になると、代謝が過剰に活発になり、動悸、暑がり、発汗過多、体重減少、手の震え、頻便や下痢、集中力低下、不眠などが起こります。なかでもバセドウ病は自己免疫の異常によって甲状腺が過剰に刺激されることで起こる病気で、目が出てくる(眼球突出)などの特徴的な症状を伴うこともあります。治療は、抗甲状腺薬の内服、放射性ヨウ素治療、または手術の選択肢があります。
甲状腺機能低下症(橋本病など)
ホルモンが不足すると、代謝が低下し、疲れやすさ、寒がり、むくみ、体重増加、便秘、乾燥肌、脱毛、声のかすれ、月経異常などが現れます。多くは橋本病といって、自己免疫によって甲状腺が慢性的に破壊される病気で、橋本病の患者の一部で甲状腺機能が徐々に低下することがあります。また高齢者においては認知症やうつ病の原因となっている場合もあるので注意が必要です。治療は、甲状腺ホルモンの内服による補充療法です。甲状腺結節・腫瘍
甲状腺が一部または全体的に腫れてくることがあり、しこり(結節)として触れることがあります。多くは良性で症状のないものですが、一部に悪性腫瘍(甲状腺がん)が含まれることがあるため、超音波検査や細胞診などによる評価が必要です。良性の場合は定期的な経過観察、悪性が疑われる場合には手術を行います。甲状腺の病気は、ホルモンの状態と甲状腺の形態の両面から評価し、丁寧に診断・治療を進める必要があります。
副甲状腺の病気について
副甲状腺は、甲状腺の裏側に通常4つ存在する小さな内分泌臓器で、副甲状腺ホルモンを分泌しています。このホルモンは、血液中のカルシウムとリンの濃度を調節する役割を担い、骨・腎臓・腸管などの働きを通じてカルシウムの恒常性を維持しています。
副甲状腺の病気は、PTHの分泌が過剰になる「副甲状腺機能亢進症」と、分泌が不十分になる「副甲状腺機能低下症」に大きく分けられます。いずれも血中カルシウムの異常を引き起こし、骨や神経、腎臓などに影響を及ぼすことがあります。原発性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺に良性の腺腫や過形成(細胞の増殖)が生じることで、PTHが過剰に分泌され、血液中のカルシウムが高くなる病気です。高カルシウム血症によって、倦怠感、口渇、多尿、便秘、食欲低下、骨痛、腎結石などの症状が現れることがあります。骨密度の低下(骨粗鬆症)や腎機能障害の原因となることもあり、無症状であっても経過観察だけでなく手術を検討することがあります。最近は健康診断などで偶然に見つかる例も増えています。副甲状腺機能低下症
副甲状腺ホルモンが十分に分泌されなくなる病気で、血中カルシウムが低下し、神経や筋肉が過敏になります。唇や手足のしびれ、けいれん、筋肉のつっぱり、ひどい場合にはけいれん発作が起こることもあります。原因としては、甲状腺や頸部の手術後の合併症、放射線治療後、自己免疫による炎症、低マグネシウム血症などがあり、まれに先天的な原因で発症することもあります。
診断には、血液中のカルシウム、リン、PTHの値を調べることが基本です。治療は、活性型ビタミンD製剤とカルシウム製剤の内服によるホルモン作用の補完が中心となります。副甲状腺の病気は、自覚症状が軽微なこともあり、長期間にわたり見逃されることがあります。しかし、骨や腎臓などに重大な影響を及ぼすことがあるため、血中カルシウムの異常を指摘された際には、早めの専門的評価が大切です。
二次性高血圧の病気について
高血圧症は、日本人の成人の3人に1人が該当するとされる極めて一般的な病気であり、脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎不全などの重大な疾患の背景因子となります。多くの高血圧症(約90%)は「本態性高血圧」と呼ばれ、はっきりとした原因が特定できず、遺伝的素因や生活習慣(食塩の過剰摂取、肥満、運動不足、ストレスなど)が関与しています。
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これに対し、残りの約10%前後は、特定の内分泌疾患や腎臓病、血管異常などに起因する「二次性高血圧」と呼ばれます。上記でご説明した。原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫や腎臓の太い動脈の狭窄(腎血管性高血圧)などが原因疾患です。原因となる病気を治療すれば、血圧が大きく改善することもあり、特に若年で高血圧を発症した方、薬を使っても血圧が下がりにくい方、夜間にも高血圧が持続する方などでは、二次性高血圧の可能性を考慮する必要があります。
当科では、これらの二次性高血圧に対してホルモン検査や画像診断を通じて正確な診断を行い、必要に応じて外科や腎臓内科、循環器内科と連携した適切な治療を提供しています。
最終更新日:2025年8月7日