脳神経外科

脳神経の仕組みに基づき診断と手術を考えます。

脳神経の仕組み

われわれ脳神経外科医は、脳神経の病気を手術で治す仕事をしています。病気を正しく診断して効果的に治療するためには、脳神経の仕組みの理解が重要ですので、ここでできるだけ分かりやすく説明いたします。ヒトは進化の過程において、二足歩行で両手が自由に使えるようになり、脳神経が大きく発達しました。脳神経は大きく分けて3つの部分、脳・脊髄・末梢神経でできています。

脳神経外科_図1
(医学教科書より引用 The Netter Collection vol.1)

頭蓋骨の中の「脳」は、神経細胞と神経線維でできている中枢神経です。脳の表面には溝がたくさんあり、中央に冠状の深い溝があります。この溝の前方には運動神経の細胞が集まっています。溝の後方には感覚神経の細胞が集まっています。
背骨の中には、脳とつながった電線のような神経が入っていて「脊髄」といいます。脊髄も、神経細胞と神経線維でできている中枢神経です。例えば、右の手足を動かそうと考えた時には、脳の左側の運動神経細胞から、脳の中心を通る神経線維に沿って指令が降りてきます。この指令は脳の中央部分に集まって反対側に交差してから、脊髄に沿って下向きに降りていきます。
さらに、脊髄の神経細胞から横向きに多数の神経が枝分かれします。これを神経根といいます。神経根は神経線維だけからなり「末梢神経」といいます。頚椎の神経根は鎖骨の下を通り、一部は肩の筋肉へ、一部は二の腕の筋肉へと枝分かれします。その後、手首から指先まで伸びていきます。腰椎の神経根は骨盤の中を通り、一部は太腿の筋肉へ、一部はふくらはぎの筋肉へ、一部はお尻の筋肉へと枝分かれします。
肩の筋肉が縮むと腕全体を頭上に挙げることができます。二の腕の筋肉が動くと肘の曲げ伸ばしができます。指の筋肉が動くと離握手ができます。太腿の筋肉が動くと膝の曲げ伸ばしが、ふくらはぎの筋肉が動くとつま先立ちができます。
この仕組みのどこかに問題が生じたらどうなるでしょうか?うまく手足を動かすことができなくなります。われわれ脳神経外科医は、これらの脳神経のどこに問題が生じているか、その原因を、問診、身体診察、レントゲン・CT・MRI検査などを駆使して診断します。この問題の答えをはっきり見つけ出すのがわれわれの腕の見せ所になります。脳神経の問題点が分かったら、脳神経外科手術の出番です。

脳神経外科_図2

脳神経外科の手術

患者さんには、いつも、脳神経外科手術は全てが難しいとご説明しています。その理由はいつかあります。1) 脳神経の大部分は頭蓋骨や背骨に囲まれているため手順が多い、2) 脳神経は他の臓器に比べてとても小さい、3) 脳神経はほぼ全てが重要な働きを持ち、予備の部分が少なく余力に乏しく手術のストレスに弱いことなどが挙げられます。
手術を安全に正確に行うために、われわれ脳神経外科医は、日々勉強し、技術を磨き、手術用顕微鏡などの高度な器械を使いこなす努力をしています。
ヒトの体は、複雑で精密な仕組みで成り立っているため、時には問題点がわからないこともあります。全ての病気が診断できるとは限りませんが、できる限り根本原因を突き止めようと日々努力しています。体調不良の真の原因が分かり的確な診断ができた時、手術治療によって体調が回復した患者さんから感謝されたとき、脳神経外科医冥利に尽きます。
この様にして、われわれ脳神経外科医は、脳神経の仕組みに基づいて、病気の診断や手術を考え抜いています。

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脳神経外科部長 髙井 敬介