膵臓がん治療について

膵臓がん治療について

1.膵臓(すいぞう)の解剖 ~膵臓はどこにあるのか~

膵臓は、胃の後ろにある、長さ20cmほどの細長い形をした臓器です。

  • 膵頭部(すいとうぶ)
    体の右側にあるやや厚みのある部分で、十二指腸が取り囲むようにくっついています。門脈左側縁までを膵頭部と呼びます。
  • 膵体部(すいたいぶ)
    膵臓の中央部分で、門脈左則縁から大動脈左側縁までの部分です。
  • 膵尾部(すいびぶ)
    大動脈左側縁から体の左側に向かう部分で、脾臓(ひぞう)に接しています。

膵臓の内部には、膵液の通り道、膵管(すいかん)が走行しています。胆汁の通り道(胆管)と合流し1本の管(共通管)となって十二指腸につながっています。

 



2.膵臓の働き ~膵臓はどんな働きをしているのか~

膵臓は「消化」と「血糖調節」という、生命維持に欠かせない2つの機能を担っています。

  1. 外分泌機能(消化を助ける働き)

    食物を消化する膵液をつくり、膵管を通じて十二指腸へ出しています。 膵液は分枝膵管から主膵管に集まり、十二指腸乳頭部で総胆管と合流し、膵液と胆汁で消化を強力にサポートします。

  2. 内分泌機能(血糖値などを調節する働き)
    インスリンをはじめとする複数のホルモンを分泌し、血糖値の調整などを行います。 この機能が低下すると糖尿病などの代謝疾患につながります。

3. 膵臓がんとはどのような病気か

膵臓がんは膵臓にできる悪性腫瘍の総称で、一般的には膵管上皮から発生する「浸潤性膵管がん(腺がん)」のことを指します。 膵臓腫瘍の 80〜90% を占めます。

4. 膵臓がんは増えているのか

  • 日本では年間約4万人以上が膵臓がんを発症
  • 死亡者数はこの40年で5倍以上に増加
  • 60歳代に多く、男性にやや多い
  • 他のがんと比べ、罹患数と死亡数がほぼ同数という極めて厳しい特徴があり、2024年のがん死亡者数の第3位となっています。


    ・がん罹患数の順位(2023年)

    1位

    2位

    3位

    4位

    5位

    総数

    大腸

    肺

    胃

    乳房

    前立腺

    男性

    前立腺

    大腸

    肺

    胃

    膵臓

    女性

    乳房

    大腸

    肺

    胃

    子宮

    出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)

 ・がん死亡数の順位(2024年)

1位

2位

3位

4位

5位

男女計

肺

大腸

膵臓

胃

肝臓

男性

肺

大腸

胃

膵臓

肝臓

女性

大腸

肺

膵臓

乳房

胃

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

    5.膵臓がんはなぜ治療が難しいのか

    • 膵臓がんは以下の理由から、早期発見が困難で治療が難しいがんとされています。

    • 特有の症状が出にくい
    • 有効なスクリーニング検査が確立していない
    • 高危険群(ハイリスクグループ)の設定が難しい
    • 小さな段階からリンパ節・肝臓・腹膜へ転移しやすい

    そのため、膵臓がんは消化器がんの中でも最も治療が難しいがんとされています。

    6.膵癌のリスクファクター

    膵癌は、早期発見が難しいがんの一つであり、リスク因子を正しく理解し、適切な検査を早期に行うことが重要です。
    近年の研究により、以下の因子が膵癌の発症リスクを高めることがわかってきています。

    主なリスク因子

    • 膵癌の家族歴
      近親者に膵癌患者が2人以上いる家系は「家族性膵癌家系」とされ、発症リスクが高くなります。
    • 糖尿病
      新規発症や急激な血糖悪化の後に膵癌が見つかる例が報告されています。
    • 慢性膵炎
      長期的な炎症が膵癌の発生リスクを高めます。
    • 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
      一部のIPMNは膵癌になる可能性があります。
    • 膵嚢胞
      膵癌リスクは3~22.5倍と報告されています。
    • 膵管拡張
      膵癌リスクは6.4倍と報告されています。
    • 喫煙
      膵癌の相対リスクは1.7~1.8倍と報告されています。

      膵癌診療ガイドライン 2025年版 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改定委員会より引用

    検査を推奨する方 ~どのような人は検査をした方が良いのか~

    以下に該当する方は、早期発見のため定期的な画像検査を推奨します。

    • 家族に膵癌患者がいる
    • 糖尿病を新規発症した
    • 急に血糖コントロールが悪化した
    • 慢性膵炎・IPMN・膵嚢胞・膵管拡張を指摘されている
    • 血清アミラーゼ(膵臓などの消化酵素)の異常値
    • 血清CA19-9(腫瘍マーカー)の高値

    注目情報当院では「膵がん早期診断プロジェクト」を行っております。詳しくはこちら

    7.膵臓がんの症状

    膵臓がんは早期には症状がほとんど出ないため、症状が現れた時点で進行していることが少なくありません。

    代表的な症状

    • 腹痛
    • 食欲不振
    • 体重減少
    • 腹部膨満感(おなかが張る感じ)
    • 腰背部痛
    • 黄疸(膵頭部がんによる胆管閉塞のため)
    • 急な糖尿病発症・血糖悪化

    膵体尾部に発生したがんは、胆管から離れているため黄疸が出にくく、発見が遅れやすい特徴があります。

    8.膵臓がんの検査

    膵臓がんが疑われる場合、複数の画像検査と血液検査を組み合わせて診断します。

    1. 血液検査(膵酵素)

    膵酵素(アミラーゼ、エラスターゼ1など)の上昇を確認します。ただし、膵臓がんがあっても上昇しない場合があります。


    2.腫瘍マーカー検査

    膵臓がんで上昇しやすい腫瘍マーカー

    • CEA
    • CA19-9
    • DUPAN-2
    • SPan-1

    3. 腹部超音波(エコー)検査

    痛みがないため、まず最初に行われる検査で、膵臓の形状や腫瘤、嚢胞、膵管拡張の有無を確認します。

    1. 4.CT検査(造影CT)

    2. 膵臓がん診断の中心となる検査です。腫瘍の位置・広がり、リンパ節・肝臓、肺などへの転移を評価します。
    3. 5. MRI検査・MRCP

    4. MRIは膵臓の質的診断に優れ、MRCPは胆管・膵管の描出に特化しています。 ERCPを行わずに膵管の状態を把握できる低侵襲の検査です。

    6. 超音波内視鏡検査(EUS)

    胃や十二指腸から膵臓を近接して観察でき、最も詳細な画像が得られる検査です。 必要に応じて EUS-FNA(穿刺吸引生検) を行い、組織を採取します。


    7. ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

    膵管・胆管を直接造影する検査。 膵液細胞診が可能で、診断確定に重要ですが、膵炎などの合併症リスクがあります。 閉塞性黄疸がある場合は、胆管ステント留置による治療も行います。


    8. 病理診断(細胞診・組織診)

    採取した細胞・組織を顕微鏡で評価し、がんの確定診断を行います。


    9. PET検査

    膵臓がんの初期診断には推奨されませんが、転移検索目的に用いられることがあります。


    10. 審査腹腔鏡

    腹膜播種や肝転移が疑われる場合に行います。

    引用:日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会,膵癌診療ガイドライン2025年版 金原出版


    9.膵臓がんの切除可能性分類

    膵臓がんは、切除可能性に応じて以下のように分類されます。

    • 切除可能(Resectable):R
      術前化学療法を行い手術で切除を行います。
    • 切除可能境界(Borderline resectable):BR
      術前化学療法・放射線治療で切除を目指します。
    • 切除不能(Unresectable):UR
      ・局所進行(Locally advanced):UR-LA
       血管浸潤などで手術不可。化学療法・放射線治療が中心となります。
      ・転移性(Metastatic):UR-M 
       肝臓・肺・腹膜などに転移あり。全身化学療法が中心となります。

    10.膵臓がんの治療について

    膵臓がんの治療は、がんの進行度(ステージ)・発生部位・全身状態によって大きく異なります。 治療の中心となるのは手術ですが、近年は化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療が標準となっています。

    1.手術治療(根治切除)

    膵臓がんを完治できる可能性がある唯一の治療法は手術です。ただし、診断時に手術可能な患者さんは全体の3〜4割とされ、早期発見が極めて重要です。

    手術術式は「がんの位置」で決まります。

    • 膵頭部がん 
      膵頭十二指腸切除術(亜全胃温存を含む)
      膵頭部・胆嚢・胆管・十二指腸・胃の一部などを切除し、空腸(小腸)で残膵、胆管、胃とつなぎ直します。
      引用:一般社団法人日本膵臓学会ホームページ 膵臓の治療(外科的治療)
    • 膵体尾部がん
      膵体尾部切除術
      脾臓周囲のリンパ節郭清を行い、通常は脾臓も切除します。 
      引用:一般社団法人日本膵臓学会ホームページ 膵臓の治療(外科的治療)
    • 膵臓全体に広がる場合
      膵全摘術
      術後はインスリン治療と消化酵素薬の内服が必須となります。

    注目情報手術後のポイント

    • 膵液瘻(すいえきろう)
      膵臓手術の代表的な合併症で、入院期間に大きく影響します。 膵液瘻がない場合は術後2〜3週間で退院可能ですが、発生した場合は約1か月の入院が必要となります。
    • 術後の影響 
      糖尿病、消化吸収障害、脂肪肝、骨粗鬆症などが起こることがあり、内分泌代謝内科と連携して治療します。

    2.化学療法(抗がん剤治療)

    膵臓がんは再発率が高いため、手術だけでなく抗がん剤治療の併用が標準治療となっています。

    1.  術前化学療法
      切除可能膵癌、切除可能境界膵癌では、手術前に抗がん剤治療を行うことが推奨されています。
    2. 術後補助化学療法
      手術後の再発予防として行う治療です。 術後化学療法により生存期間が延長することが国内外の研究で証明されています。
    3. 膵癌に対する化学療法
      肝臓・肺・腹膜などに転移がある場合は、全身化学療法が第一選択となります。 近年は新規薬剤の登場により、 化学療法が著効した場合手術(コンバージョン手術)可能となるケースもでてきています。

    3.放射線治療

    隣接する重要血管に浸潤した局所進行膵癌では、化学療法と放射線治療を併用することがあります。

    11. 集学的治療の重要性

    膵臓がんは非常に難治性で、手術後も半数以上が再発するとされています。 そのため、以下を組み合わせた治療が標準です。

    • 手術(根治切除)
    • 化学療法(術前・術後)
    • 放射線治療 

    12.その他の膵臓腫瘍 ~膵臓がん以外の膵臓腫瘍にはどんなものがあるのか~

    膵臓には、膵臓がん以外にも色々な種類の腫瘍性疾患が存在します。
    いずれも早期発見と適切な診断が重要で、腫瘍の種類によって治療方針が大きく異なります。

    1. 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN: Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)

    膵管内に粘液を産生する腫瘍ができ、膵管が拡張してくる病気です。高齢男性に多く、近年増加が指摘されています。膵管には、膵臓全体の膵液が集まる太い膵管(主膵管)と、主膵管に注ぎ込む細い膵管(分枝膵管)があり、IPMNはその発生部位によって主膵管型と分枝型に分けられます

    IPMNのタイプ

    • 主膵管型(Main duct type)
      主膵管が拡張するタイプで、悪性化の可能性が高く手術治療が推奨されます。
    • 分枝型(Branch duct type)
      分枝膵管が嚢胞状に拡張するタイプ。 一部は悪性化の可能性があり、超音波内視鏡(EUS)による評価が推奨されています(2012年国際ガイドライン)。

    2012年改訂のIPMN/MCNの国際診療ガイドラインでは、High-risk stigmataというIPMNの悪性度指標が設けられています。

    High-risk Stigmata(HRS)(悪性を強く示す所見)

    1.  閉塞性黄疸を伴う膵頭部嚢胞性病変
    2. 造影される嚢胞内の充実成分
    3. 主膵管径 ≧ 10mm

    注目情報当院では、消化器内科がEUSによる精密評価を実施しています。

    また、IPMN病変がある人の膵臓には、病変と関係ない部位から通常の膵臓がんが発生する事があり、IPMN併存膵癌と呼んでいます。一般の人では膵臓がんの年次罹患率は0.03%ですが、IPMN病変がある人の膵臓を5年間継続して経過観察した際にIPMN併存膵癌が見つかる確率は2~9%と報告されています。


    2.粘液嚢胞性腫瘍(MCN: Mucinous Cystic Neoplasm)

    嚢胞内に粘液が溜まる腫瘍で、ほとんどが女性に発生します。 膵尾部にできやすく、40〜50歳代の比較的若い年代に多いことが特徴です。
    MCNは悪性化の可能性があるため、原則として手術治療が推奨されます。

     

    3. 膵神経内分泌腫瘍(NET: Neuroend0crine tumor)

    膵臓にあるホルモンを産生する「神経内分泌細胞」から発生する腫瘍です。性質により以下の2つに分類されます。

    NETの分類

    • 機能性NET
      ホルモンを過剰に産生し、低血糖や消化管症状など特有の症状を引き起こすタイプ。
    • 非機能性NET
      ホルモン症状がなく、腫瘍が大きくなるまで症状が出にくいタイプ。

    また、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)という遺伝性疾患が関与する場合があり、治療方針が大きく変わります。
    当院では、外科、消化器内科、内分泌代謝内科、放射線科が連携し、腫瘍の性質に応じた最適な診断・治療を提供しています。

    13.膵臓・膵臓がん FAQ(よくあるご質問)

    膵臓がんの危険因子には何がありますか。
    近年の研究で以下が危険因子として明らかになっています。
    ・膵臓がんの家族歴
    ・糖尿病(新規発症・急激な悪化)
    ・慢性膵炎
    ・IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)
    ・膵嚢胞
    ・膵管拡張
    ・喫煙

    どのような人は膵臓がんの検査をした方がよいですか。
    以下のような方です。
    ・家族に膵臓がん患者がいる
    ・糖尿病を新規発症した
    ・急に血糖コントロールが悪化した
    ・慢性膵炎、IPMN、膵嚢胞、膵管拡張を指摘されている
    膵臓がんはどんな症状が出ますか。
    早期には症状がほとんど出ません。進行すると以下の症状が現れることがあります。
    ・腹痛 
    ・食欲不振
    ・体重減少
    ・腹部膨満感
    ・腰背部痛
    ・黄疸(膵頭部がんで多い)
    ・急な糖尿病発症、血糖悪化
    膵体尾部がんは黄疸が出にくく、発見が遅れやすい特徴があります。
    膵臓がんはどんな検査で診断しますか。

    複数の画像検査と血液検査を組み合わせて診断します。

    • ・血液検査(膵酵素)
      ・腫瘍マーカー(CEA、CA19-9 など)
      ・腹部超音波(エコー)
      ・造影CT(診断の中心)
      ・MRI・MRCP(膵管・胆管の描出に優れる)
      ・超音波内視鏡(EUS)/EUS-FNA
      ・ERCP(膵液細胞診・胆管ステント)
      ・病理診断(細胞診・組織診)
      ・PET(転移検索)
    膵臓がんの治療にはどんな方法がありますか。
    治療はがんの進行度・発生部位・全身状態で異なります。
    1.手術治療(根治切除)
     完治を目指せる唯一の治療法です。 がんの位置により術式が異なります。
    •  ・膵頭部がん :膵頭十二指腸切除術
       ・膵体尾部がん : 膵体尾部切除術
       ・膵臓全体 :膵全摘術
    • 2.化学療法(抗がん剤)
       ・術前化学療法
       ・術後補助化学療法
       ・切除不能、再発膵がんに対する化学療法
    • 3.放射線治療
       局所進行膵がんで併用されることがあります。