1.肥満症とは
肥満症とは、単に体重が多い状態である「肥満」とは異なり、肥満が原因となって健康障害を伴っている状態を指します。(図1)
肥満に関連する代表的な疾患として、糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。これらは、適切な減量により改善が期待できる「治療対象となる病態」です。
(注)BMI(体格指数)=体重[kg] ÷ 身長[m]2
BMI25以上は「肥満」と判定されます。

2.肥満症治療の基本的な流れ
肥満症の治療は、体重を減らすことにより、内臓脂肪を減少させ、合併症の改善・予防を図ることにあります。(図2)
治療の基本は以下の3つです。
・食事療法
・運動療法
・行動療法
これらを組み合わせ、個々の状態に応じた現実的な減量目標を設定します。
行動療法とは、体重や食事内容を日々記録し、自身の生活習慣を客観的に振り返ることで、無理のない範囲で行動を修正していく方法です。
これらの生活習慣改善を一定期間(原則6か月以上)継続しても十分な効果が得られない場合には、医学的適応に基づき薬物療法(GLP-1受容体作動薬など)を併用します。さらに高度肥満例では外科治療を検討する場合もあります。
ただし、薬物療法や外科治療を行う場合でも、生活習慣の改善は不可欠です。これが不十分な場合、治療効果が十分に得られないだけでなく、副作用のリスクも高まります。

3.なぜ肥満症治療は難しいのか
肥満症の治療は、理論としては明確である一方、実践は決して容易ではありません。
現代社会では、
・交通・物流の発達による身体活動量の低下
・コンビニや外食、デリバリーの普及
・不規則な勤務形態やストレス
・睡眠リズムの乱れ
といった環境要因が、食習慣や生活習慣に大きく影響しています。
つまり肥満は、個人の意思だけで生じる問題ではなく、社会的要因が強く関与する病態です。
一方で治療としては、
自らの生活を振り返り、行動を調整していく必要があります。
これは多くの方にとって大きな負担であり、継続が難しい理由でもあります。
インクレチン治療について
近年、GLP-1やGIPといった腸管ホルモン(インクレチン)を応用した治療が注目されています。これらの薬剤には、
・満腹感を高める作用
・食欲そのものを抑制する作用
があり、結果として摂取カロリーが減少し、体重減少が得られます。
現在では糖尿病だけでなく、肥満症に対する治療薬としても保険適用されています。
しかし重要なのは、「注射をすれば自然にやせる薬ではない」という点です。
この治療はあくまで、食事量を無理なく減らしやすくする補助であり、生活習慣の改善が前提となります。
治療導入前の準備の重要性
インクレチン治療の効果を最大限に引き出すためには、事前に
・食事量・食事時間の見直し
・間食の整理
・生活リズムの安定化
といった取り組みを行うことが重要です。
これにより治療開始後、
・食事量を自然に抑えられる
・間食欲求が減る
といった効果を実感しやすくなります。
準備不足の場合に生じうる問題
一方で、生活習慣の見直しが不十分なまま治療を開始すると、
・消化器症状(吐き気・胃もたれ)の増加
・食事量減少に対する心理的喪失感
・甘味食品への偏り(アイス・菓子など)
・食事リズムの乱れ
などにより、十分な減量効果が得られない、あるいは体調不良をきたす可能性があります。
そのため保険診療上も、治療開始前に6か月以上の食事・運動療法の実施が求められています。
4.肥満症教育入院のご案内
当科では、肥満症治療の導入に際し8日間の教育入院プログラムを実施しています。
この入院プログラムは、短期間での体重減少を目的としたプログラムではありません。今後の外来継続診療での食事、運動、行動療法、必要な場合応じてその後の薬物治療を効果的かつ安全に実施いただくための治療導入が目的です。主旨は以下のとおりです。
[1] 多職種による包括的アプローチ
入院中は以下を集中的に行います。
・食事療法
実際の食事を体験しながら、無理なく継続可能な改善方法を検討します。
・運動療法
エルゴメーターを用いた、身体への負担が少ない運動を体験します。
・行動療法・心理的支援
・食行動の分析
・体重記録(グラフ化体重日誌)の指導
・心理面の評価(必要に応じて精神科医・臨床心理士が対応)
肥満症では、うつ状態や過食傾向などが背景に存在することも少なくありません。
そのため、身体面だけでなく心理社会的側面も含めた評価と支援を行います。
[2] 短期集中による「生活のリセット」
日常生活の中で生活習慣を変えることは容易ではありません。
入院という非日常環境に身を置くことで、
・一度生活をリセットする
・自分の行動パターンに向き合う
・退院後の生活を具体的に設計する
ことが可能となります。
この経験は、退院後の治療継続に大きく寄与します。
また外来診療も含めた当科における肥満症診療の概要は下記ページをご参照下さい。
成人肥満症外来 診療の概要
受診をご希望の方へ
当科での肥満症教育入院をご希望の方は、まずはかかりつけ医にご相談ください。
主治医の先生に当院ホームページ内「医療機関の皆様へ」(リンク)をご参照いただき、紹介状をご用意のうえ、当院外来予約センターへ「成人肥満症外来」としてご予約ください。
(入院前に一度、外来受診が必要です)
最終更新日:2026年5月12日

