MRIとリニアモーターカーの共通点と違い

見えない力で見えない病気を見える化。MRIとリニアモーターカーの共通点と違い

MRI検査を受けたときに、注意事項が多くて驚いたことはありませんか?安全に利用するために欠かせない注意事項ですが、実はMRIに用いられている「見えない力」が関係しているのです。
そして実は、MRIとリニアモーターカーには意外な共通点があることをご存じでしたか?

そんなMRIについて、そしてMRIとリニアモーターカーの共通点と違いについて、都立病院の診療放射線技師が解説します。

MRI検査とは?

MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場高周波(RF)パルスを利用して体内を詳細に可視化する医療技術です。
X
線を使用しないため放射線被ばくの心配がなく、侵襲性の低い検査として広く活用されています。MRIは主に水素原子の動きを検出することで、臓器・血管・筋肉などの構造を鮮明に映し出します。検査中には大きな音が発生しますが、痛みはなく、身体への負担も少ないのが特徴です。

超電導磁石の力

現在、多くのMRI装置では「超伝導磁石」と呼ばれる特殊な磁石が用いられています。
超伝導磁石は、極低温で電気抵抗がゼロになることで大電流を流せるようになり、非常に強力で安定した磁場を生成できます。
このような高磁場を安定的に供給できる技術は、医療用途のほかに、未来の高速交通手段として注目されている「リニアモーターカー」にも応用されています。
なお、MRIには永久磁石型など他の方式もありますが、現在の主流は超伝導磁石を用いた装置です。

MRIとリニアモーターカーのイラスト

MRIとリニアモーターカーの違い

MRIでは、超伝導磁石によって生じた磁場を使って体内の水素原子の反応を検出し、画像として再構成します。
一方、リニアモーターカーは、車体と地面の間の摩擦を減らすため、磁場を利用して車両を浮上・推進させています。
同じ超伝導磁石でも、その使い方はまったく異なります。
MRI
では患者さんが磁場の中心に入るのに対し、リニアモーターカーでは車両の外側に磁石が配置され、乗客が磁場の影響を受けにくい設計となっています。

磁場の強さを比べてみる

磁場の強さを比べると、その違いは顕著です。
現在主流のMRI装置の中心部では、1500もしくは3000ミリテスラ(mT)という非常に強い磁場が発生しています。
一方で、リニア新幹線の車内では最大で約1.33mT、沿線ではわずか0.19mT程度です。
つまり、MRIはリニアモーターカーの車内より1000倍以上も強力な磁場となっているのです。

MRIでの注意事項

MRIは強力な磁場を利用します。安全にMRI検査を受けていただくために、以下の内容には注意が必要です。

金属製品に注意!

MRIの強力な磁場は、金属製品に強く反応します。
アクセサリー腕時計スマートフォン磁気カード(クレジットカード、ルームキー等)などを検査室に持ち込むと、装置に吸着され、破損や事故の原因になるおそれがあります。
実際に、金属製の酸素ボンベや車いすが装置に吸い寄せられ、重大な事故につながった事例も報告されています。

MRI検査の際に注意すべきもの。アクセサリー・腕時計・鍵・スマートフォンをイラストで例示

ネイルアートも…

また、マグネットネイル、フラッシュネイル、磁性体を含むジェルネイルなどのネイルアートを施されている方は、必要に応じて検査前に除去をお願いする場合があります。
これらは発熱、画像への影響、機器への吸着といったリスクを引き起こす可能性があるためです。安全な検査を行うために、検査を受ける施設で事前の確認をお願いいたします。

体内の金属にも要注意

体内や皮膚表面に金属がある場合も注意が必要です。
RF
パルスによって金属が加熱され、火傷を引き起こすリスクがあります。
心臓ペースメーカー人工関節刺青(特に金属顔料を含むもの)などがある方は、必ず事前に申告しましょう。
問診では、すべての情報を正確に伝えることが、安全な検査を行う上でとても大切です。

体内の金属にも注意。心臓ペースメーカー、人工関節、刺青がある人はその旨を医師に申告しましょう

科学の力を安全に活用するために

MRIは体内を詳細に映し出す医療機器として、リニアモーターカーは摩擦を減らして高速移動を可能にする交通手段として、それぞれ異なる目的で磁場を利用しています。磁場の強さや人体への影響、安全対策には違いがありますが、共通するのは「見えない力」を制御する科学の知恵です。便利で快適な技術も、正しい知識と注意があってこそ安全に使えます。MRI検査を安全に受けるためには、検査前の正確な申告スタッフの事前の問診が重要です。磁石の力は、医療では命を支え、交通では未来を走らせる――そんな偉大な技術だからこそ、その恩恵を最大限に受けるには、私たち一人ひとりの理解と協力が欠かせません。

その他のコラム

CTとビートルズの意外な関係

ABO血液型のお話

最終更新日:令和7年10月8日

都立病院発!みんなの医療・健康