現役世代からはじめる認知症予防

9月21日は認知症の日
9月は「認知症月間」です

現役世代からはじめる認知症予防

40代、50代の現役世代の皆さんにとって、「認知症」は親世代の病気であって、自分たちには認知症予防はまだ早いと思われているかもしれません。2023年9月15日時点の日本における高齢者(65歳以上)の人口は3,623万人で、総人口に占める割合は29.1%と過去最高となりました。また、国の調査では、2025年には、認知症の人が675万人になると推計されています1)。すでに超高齢社会である日本において、認知症の人はますます増えると考えられています。だからこそ、認知症は高齢者になってから予防策を講じるのではなく、現役世代のうちから備えておくことが、とても大事になってきます。認知症予防について、東京都立多摩北部医療センター神経内科医長 有井 一正先生にうかがいました。

都立多摩北部医療センター
神経内科医長
有井 一正

有井先生 写真
【専門分野】神経内科全般、特に脳血管障害の診断、・急性期治療、認知症疾患の診断とケア

注目情報多摩北部医療センター | 東京都立病院機構 (tmhp.jp)

糖尿病は認知症のリスク

認知症の発症に関係しているのではないかと考えられる危険因子(リスク)はいくつかありますが、認知症と糖尿病の相関性に関してはかなり明らかな報告があります。
イギリスの政府機関に働く人を対象にした健康に関する約32年間のデータを解析したものからは、認知症と糖尿病の関係性が深いことがわかりました。さらに「糖尿病の発症時期が早いほど認知症になるリスクが高い」ということが導き出されました2。65歳から70歳までに糖尿病を発症した人は、70歳時点で糖尿病ではない人に比べて24%も認知症になるリスクが高いということがわかったのです。60歳未満で糖尿病を発症した人も同様に認知症のリスクが高いということが報告されています。

このような研究結果から、日本の認知症に関するガイドライン3でも、糖尿病の血糖コントロールは認知症予防に有効で、とくに中年期の血糖コントロールが認知症の発症予防には必要だとしています。

認知症のリスクに生活習慣病があり

認知症の発症のリスクとなるものは、糖尿病以外にも、高血圧、脂質異常症、肥満などがあります。いわゆる生活習慣病といわれるものですね。

認知症というとアルツハイマー型認知症がよく知られていますが、ほかにも「脳血管性認知症」というタイプがあります。脳血管性認知症は、脳卒中(脳梗塞・脳出血)によって起こります。ですから、脳卒中にならないことが何よりの予防になります。高血圧も脂質異常症も肥満も脳卒中のリスクになりますから、これらのリスクを回避することが認知症の予防にもつながります。

血圧の管理がうまくいかないと、微小脳出血(マイクロブリーズ:脳のなかの非常に細い血管から漏れた出血の痕跡)が増える危険があります。マイクロブリーズはほとんど自覚症状がありませんが、マイクロブリーズが起きたその場所では確実に脳の組織破壊が進みます。マイクロブリーズは脳血管性認知症だけではなく、アルツハイマー型認知症の進行にも関連性があるといわれています。

生活習慣病予防の先に認知症予防もある

高血圧などが認知症のリスクになることはさまざまな研究から報告されています。現役世代の認知症予防としては、生活習慣病にならないように気をつけること、それが認知症予防にもつながります。

2025年には認知症の人の数が675万人になるという予想に対し、実際にはそこまで増えていません。認知症の人が増えなかった要因の一つには脂質異常症の治療が進んだことがあると思います。現在、脂質異常症の患者さんの多くが、スタチンという薬でコレステロール値を管理しています。適切な治療によって、脂質異常症の進行を抑え、動脈硬化、そこから生じる心筋梗塞、脳梗塞などの重症の病気を予防します。認知症予防のためにスタチンを服用している人はいないと思いますが、結果的に脂質異常症の悪化を防ぎ、認知症も予防していると推測することができるでしょう。

認知症予防を視野に入れて、生活習慣病予防の王道である運動と食事について考えてみましょう。

階段を上っているイラスト

運動については、体脂肪の燃焼が期待できる有酸素運動がおすすめです。ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動は、時間をかけて行いますが、現役世代の皆さんなら毎日の通勤時間を利用して、駅ではエスカレーターではなく階段を使うなど、日々の生活のなかに運動を取り入れましょう。運動量の目安としては、1週間で150分を目標にするとよいと思います。平日は20分くらいで、土日のどちらかに1時間運動すると目標はクリアします。無理なく運動習慣をつけるようにしましょう。

高齢者で問題になるのが、「ロコモティブ症候群(ロコモ)」です。これは筋力や骨、関節の機能低下によって歩きにくくなったり、手足が動かしにくくなったりする状態をいいます。ロコモになると運動しなくなるので、ますます筋肉量が減り、基礎代謝も低下します。その結果、同じカロリーを摂取しても太りやすくなります。筋肉量が減ると食事から摂取したブドウ糖の取り込みも減り、糖尿病にもなりやすくなります。そうなる前に今からせっせと筋肉を蓄えておきましょう。

食事に関しては、バランスのよい食事を心がけましょう。生活習慣病の予防の食事というと、「肉はダメ!」と考える人がいますが、そんなことはなく、肉も含めてバランスよく召し上がってください。
以前「なんとなくぼんやりする」「記憶があいまいになる」と受診してきた人がいました。その人に食事の内容を聞いてみると、魚中心で肉はほとんど食べないとのこと。検査でビタミンB1、ビタミンB12が不足していることがわかり、食事指導した結果、気になっていた症状が改善しました。亜鉛欠乏などによる嗅覚味覚障害を背景に食事が偏り、ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸などの栄養素が不足して、もの忘れがひどくなるケースもまれにあります。ビタミンB1もB12も多く含まれるのは豚肉やウナギ、サンマ、亜鉛でしたらカキやレバーに多く含まれています。

ビタミンB1、B12は豚肉やアサリなどに多く含まれ、亜鉛はカキ、豚レバー、卵に多く含まれます
ビタミンB1、B12は豚肉やアサリなどに多く含まれ、亜鉛はカキ、豚レバー、卵に多く含まれます

もの忘れ外来の医師からのメッセージ

認知症予防にはなるべく外出をして刺激を受けるとよいと思います。外から受ける刺激が多ければ多いほど脳も活発に動きます。歩かないと足の筋肉が衰えるように、脳も刺激を受けないと活動が低下し、必然的に弱くなります。現役世代の皆さんも、どんどん新しいことにチャレンジして脳に刺激を与えてください。

また、耳が遠くなっている人は補聴器などを早めに使い始めるとよいでしょう。耳から入ってくる情報は脳で高度に処理されます。耳からの情報が得られなければ脳の作業が減ってしまいますし、耳が遠くなると人とのコミュニケーションもとりにくくなります。
母国語以外の言語や音楽など多彩な音に触れることで、脳への刺激を増やすことも機能維持に役立つ可能性があります。お好きな外国語学習や音楽を楽しんでいただくとよいかもしれません。

年齢を重ねていけば誰しももの忘れは増えてきます。認知症と診断された場合には、あまり悲観的にならず、活動的かつ最大限安全に暮らせるよう、極力その人自身の足で暮らしていけるよう、さまざまなものを整え、自己管理を上手にできるようにしていきましょう。

1)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値

2)Study links younger age of onset of type 2 diabetes to increased risk of dementia(米国老化研究所2021年7月22日)

3)認知症疾患診療ガイドライン作成委員会,「認知症疾患診療ガイドライン2017」,医学書院

最終更新日:令和6年8月9日