周産期うつ病 赤ちゃんと出会えてうれしいのに苦しい
出産を終え、かわいい赤ちゃんが腕の中にいるのに何となく悲しい気分になる、不安で胸がいっぱいになるというお母さんたちがいます。
そんなブルーな気持ちはホルモンバランスの急激な変化も影響しているといわれていますが……。
こころの不調に気づくことの大切さと、そこから適切な支援につながることの重要性を東京都立荏原病院産婦人科の吉野佳子先生に聞きました。
都立荏原病院
産婦人科 部長
吉野 佳子
周産期うつ病、マタニティブルーとどう違う!?
周産期うつ病は妊娠中から産後1年くらいまでにみられる気持ちの落ち込みや不安、興味の喪失などの状態が2週間以上続き、日常生活や育児に支障が出る状態を指します。周産期うつ病になる人は、出産した人の10~15%ぐらいといわれていて、10人に1人から2人は経験するとされています。
一方、マタニティブルーと呼ばれる状態は、出産後数日から2週間程度に起こる一時的な気分の揺れで、不安が強まったり、涙もろくなったりします。通常は治療を受けなくても自然によくなるといわれています。マタニティブルーは妊婦さんの30~50%程度に生じるといわれています。
プロゲステロンというホルモンは、通常卵巣から分泌されていますが、妊娠期間中は妊娠を維持するために、胎盤からも分泌され分泌量が非常に増えます。しかし、出産後は胎盤が体の外に排出されるため、プロゲステロンの分泌量は急激に低下します。このようにホルモンバランスが大きく変化することで、気分の変調などが起こりやすくなるといわれています。月経前症候群(PMS)のように月経前に気分や体調に変化が生じやすい人は、ホルモンバランスの変化に敏感な人といえ、妊娠出産の際もホルモン変化の影響を受けやすいといわれています。

しかし、ホルモンバランスの変化だけで、産後のこころの不調を説明できるものではなく、その人の元々の性格やストレスに対する耐性、過去にうつ病になったことがあるかどうか、育児に対する家族の支援状況、経済的な負担、赤ちゃんの健康状態など、さまざまな要因が影響を及ぼします。
心の不調に気づくポイント
過去にうつ病などの精神疾患になったことがある人はかかりつけの産婦人科医に、そのことを伝えて、周産期うつ病の兆候がみられたときには、なるべく早くに医学的な介入ができるようにしておいたほうがよいでしょう。
また、出産前からパートナーや家族と話し合って、家事や育児の分担を決めておき、なるべく睡眠や休息の時間を確保し、食事についても負担にならないように調整しておくことが周産期うつ病の予防につながります。
こころの不調に気づくポイントとして、次のようなことが挙げられます。
・気分の落ち込みが一定期間以上続く
・眠れない
・食欲がない
・笑うことがなくなった
・赤ちゃんへ関心がもてない、かわいいと思えなくなる
・強い不安やパニック発作がある
・「消えてしまいたい」「死んだほうが楽かも」と考えることがある など
普段から楽しい、面白いと思っていたことに対して興味がなくなることはこころが元気じゃない重要なサインです。
このような変化に対しては本人だけではなく、周りの人も早く気づいてあげられるとよいでしょう。
当院では産後1か月検診のときに、医師から「眠れていますか」「ご飯はしっかり食べていますか」と問いかけながら状況を確認しています。現在は希望者と体調不良の方をメインに行っている「産後2週間検診」の際にも、同様の確認をしています。2週間検診は基本的には自費診療になりますが、東京都では2026年10月より産後2週間検診に助成金がつくようになり、出産したすべての方が受けられるようになります。今後はさらに早期に心身の不調をピックアップできるようになることと思います。
こころの不調がみられるお母さんを支える公的支援
がんと診療されると思い悩むことはたくさんあると思います。
そんなAYA世代の患者さんに対して、医師、看護師、心理師、カウンセラー、ソーシャルワーカーなど多職種がチームを組んでサポートしていきます。
産後検診の際には、医師による問診のほかに、「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」というアンケートに答えてもらいます。
「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」とは「笑うことができている」「眠れている」「泣きたくなる」などのさまざまな感情に関する10の質問に4択で回答してもらいそれを点数化します。そこからお母さんのこころの不調を早めにキャッチするようにしています。
精神科の治療を受けるほどではないが、気分が落ち込みやすい傾向にある人に対しては、地域の保健師さんと密に連絡をとり、希望者には保健師さんによる家庭訪問を実施し、支援することがあります。
ご本人が「この状況はつらい」と感じたときに相談するところとして、保健所の保健師さんのほかにもお住まいの市区町村の保健センターがあります。
近年は自治体ごとに産後ケア事業が整備され、出産後に体調がすぐれない、気持ちが落ち込む、母乳が出ないなどの相談、母子の健康にかかわることなら何でも相談ができる産後ケア施設があります。
宿泊型の施設を利用し、助産師さんをはじめとする専門のスタッフからアドバイスを受けることで気持ちが軽くなる人は少なくありません。ほかにも子育て支援センター、保健所で開催する母親学級なども利用して孤立しないということが重要です。
どうしてもワンオペ育児になり、休まる時間がないという人は、昼間、赤ちゃんを保育園に預けてお母さんが休息を取れるようにするということもできます。
周産期うつの治療
「この落ち込み方、普通じゃないわ」と感じたときには、まず自分が出産した病院の産科の医師に相談してください。
そこで解決が難しい場合には精神科を紹介してもらうことができます。
治療には心理療法と薬物療法があります。
心理療法では、認知行動療法や対人関係療法などを通じて、考え方のクセや人間関係のストレスを整理し、気分の回復を目指します。
薬物療法では、妊娠中や授乳中でも使用可能な抗うつ薬が複数あり、母体の症状や妊娠週数、胎児・新生児への影響をそのときどきに総合的に判断して選択されます。授乳中は母乳への薬の移行量が少ない薬を選び、赤ちゃんの様子を注意深く観察しながら治療を行います。
もし「死にたい」「赤ちゃんを傷つけてしまいそうで怖い」といった気持ちが強い場合は、ためらわず救急外来や夜間・休日の相談窓口にすぐ連絡することが必要です。
こころの不調に気づいていても経済的な理由から病院にかかれないと思い込んでいる人がいらっしゃるかもしれません。しかし、ソーシャルワーカーなどがなるべく患者さんの負担がかからないように、社会的資源が使えるようにセッティングしてくれると思います。
妊娠・出産はとても喜ばしい半面大変なこともたくさんあります。
とくに初産のお母さんは初めてのことだらけで大きな不安を抱えてしまうこともあるでしょう。
しかし、自分だけで解決しようと頑張りすぎずに、周りに相談してください。
お母さんが安心して過ごせることが、赤ちゃんの幸せにもご家族の幸せにもつながっていくと思います。

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最終更新日:令和8年10月7日


