薬剤耐性(AMR)ってなに?

クスリが効かないバイ菌の話。薬剤耐性(AMR)ってなに?

みなさんは「薬剤耐性」という言葉を聞いたことがありますか?英語の頭文字をとって「AMR(Antimicrobial Resistance)」とも呼ばれ、世界中で深刻な問題となっています。

今回は「薬剤耐性(AMR)」の仕組みや原因、対策などについて都立病院の薬剤師がお話しします。

薬剤耐性(AMR)とは?

薬剤耐性(AMR)とは、「抗菌薬が細菌に効かなくなる(効きにくくなる)現象」のことです。抗菌薬は細菌の増殖を抑えたり、殺したりする薬で、抗菌薬によって、細菌が原因で引き起こされる感染症を治療しています。そのため人類の健康を守るために欠かせない存在です。しかし、抗菌薬を不適正に使用すると、細菌が薬に抵抗する武器(耐性)を持ち、効きにくくなることがあります。このように、抗菌薬が効かない(効きにくい)細菌を「薬剤耐性菌」と呼びます。

抗菌薬はウイルスが原因の感染症には効果が期待できません。そのため、例えばウイルスが原因である風邪に対して、治療に必要のない抗菌薬を服用することで、体内にいる細菌の中で耐性をもつ細菌が生き残り、やがて増殖します。その結果、以前は簡単に治療できていた感染症が、薬が効きづらい「治療困難な病気」となってしまうことがあります。

通常では抗菌薬を飲むと細菌をやっつけることができるが、一方で薬剤耐性があると抗菌薬を飲んでもやっつけることができない。

なぜ薬剤耐性(AMR)が問題なのか?

薬剤耐性(AMR)の最大の問題点は、「感染症が治りづらくなる」ことです。
たとえば、肺炎や尿路感染症、けがによる化膿など、以前は抗菌薬を使えば治った病気が、治療に長期間かかり、最悪の場合は命を落とす危険性もあります。また、治療期間の長期化や重症化により多額の医療費がかかる可能性があります。

特に、がん治療や手術など免疫が低下している患者が多い医療の現場では、抗菌薬が効かない感染症は深刻な脅威です。

世界保健機関(WHO)によると、2019年には薬剤耐性(AMR)が原因で全世界の年間約127万人が死亡していると推計されており、このまま対策を取らなければ、2050年には年間1,000万人が亡くなるという予測もあります。これは、がんによる死者数を上回る規模です。

薬剤耐性(AMR)の原因とは?

薬剤耐性菌が現れるには、いくつかの原因が考えられています。

抗菌薬の不適正な使用

大きな原因は、抗菌薬の不適正な使用です。
先ほどもお伝えしたように、風邪はウイルスによる感染症であり、抗菌薬は効果が期待できません。しかし、患者が「早く治したい」と抗菌薬を希望することで、本来必要ない場面で抗菌薬が使われてしまうことがあります。

薬を途中でやめる

「症状がよくなったから」といって、医師の指示より早く薬の服用をやめてしまうと、体内に残った細菌が薬剤耐性菌となることがあります。

医療以外の農産物・畜産・水産における抗菌薬の使用

農産物・畜産・水産においても病気の予防や治療のために抗菌薬が使用されています。これによって動物の体内で耐性菌が発生し、環境や食品を通じて影響を及ぼすことが知られています。

私たちにできることは?

AMR対策は、個人の行動から国際的な政策まで、多方面にわたる取組が必要です。
その中で私たちにできることはどんなことでしょう?

抗菌薬の適正使用(抗菌薬を正しく使う)

  • 医師に処方された抗菌薬を使用し、自分の判断では飲まない
  • 処方された量と期間を守って、途中でやめない
  • 風邪などウイルス感染症には抗菌薬が効かないことを理解する

感染予防

  • 日常的な手洗い、うがい、消毒など感染対策を心がけ、感染症にかかりづらくする
  • インフルエンザや肺炎球菌など、ワクチンで予防できる感染症は、予防接種を受ける

農産物・畜産・水産における対策

  • 環境や食品、動物の抗菌薬使用について関心を持つ
抗菌薬を飲むと、細菌による感染症には効果があるが、ウイルスが原因の風邪には効果がない

国際的な対策とは?

薬剤耐性(AMR)は日本だけの問題ではありません。人や動物、食べ物、環境などを通して耐性菌は広がるため、国境を越えた対策が求められます。これを「One Health(ワンヘルス)」といい、人間・動物・環境の健康を一体として守る取組が進められています。

2015年には世界保健機関(WHO)から「薬剤耐性に関するグローバル・アクションプラン」が発表され、日本でも2016年に「AMR対策アクションプラン」が策定されました。医療・農業・教育など、さまざまな分野が連携しながらAMR対策を進めています。

注目情報AMRについてもっと、詳しく知りたい方は下記をご参照ください。

最後に

薬剤耐性(AMR)は、一見すると専門的な問題のように思えるかもしれません。しかし実際には、私たちの日常生活の中に原因があり、解決のためには一人ひとりの理解と行動が不可欠です。

抗菌薬は、人類が長い年月をかけて手に入れた「医療の武器」です。その力をこれからも守り続けていくために、まずは正しい知識を持ち、自分にできることから行動していきましょう。

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最終更新日:令和7年10月17日

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