放射線治療の“これまで”と“これから” (前編)

放射線治療とは? 正しく学んで理解を深めよう(前編)

放射線治療の“これまで”と“これから” ― 医師が語るがん治療の最前線

放射線治療と聞くと、「どんな治療なのか」「痛くて怖いのでは」「副作用は?」などといった、漠然とした不安や疑問を抱く方は少なくありません。放射線治療は100年以上の歴史を持つ治療法ですがいまだその内容が十分に理解されていないという調査報告もあります。 

今回は、放射線治療の基本的な概念、治療目的、納得できる治療選びについて、駒込病院放射線科治療部の室伏景子部長にききました。

都立駒込病院
放射線科治療部 部長
室伏 景子

100年以上の歴史を積み重ねてきた放射線治療

放射線治療と聞くと、最新医療というイメージを持たれる方もいることでしょう。
しかし、その歴史は長く、レントゲン博士がX線を発見した1895年の翌年に治療が開始されました。
以来100年以上にわたる研究の積み重ねにより、安全性と有効性を兼ね備えた放射線治療のさまざまな手法が確立されてきました。 

放射線治療は「怖いもの」ではなく、適切に行えば患者に大きなメリットをもたらす治療なのです。

日本では「放射線=怖いもの」という印象が根強くあります。これは、唯一の被爆国としての過去の歴史や「目に見えないものが身体に影響する」ことへの恐怖心が背景にあるといわれています。実際、これには放射線治療に対応できる医師数や施設数の少なさなども関係していると思われます。

実際、欧米ではがん患者さんのおよそ60%で治療に放射線が使用されているのに対し、日本では約25%にとどまっています。 これには放射線治療に対応できる医師数や施設数の少なさなども関係していると思われます。

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現在の医療現場では、放射線を「見える化」する技術が進歩し、治療に用いられる放射線量も精密に測定・管理されています。すべての放射線治療は、法律で定められた厳格な安全基準のもとで整備されています。また、医療上、人体に放射線を照射できるのは、診療放射線技師と医師・歯科医師の国家資格を持つ専門職に限られていることもその1つです。

放射線治療は、がんの3大標準治療の1つ

放射線治療とは、がん細胞に放射線を照射し、細胞の遺伝子(DNA)に傷をつけることで、細胞を死滅させる局所的な治療です。
正常細胞と比べてがん細胞は放射線によるダメージを受けやすく、その修復に時間がかかるという性質を活かして治療を行います。

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また、放射線治療は、がんの「3大治療法」のひとつで、手術や化学療法(抗がん剤)とならび称されています。これら3つの治療法は、それぞれ単独で、あるいは組み合わせて実施されることがあります。複数の治療法を組み合わせることを「集学的治療」と呼びます。
特に、放射線治療の効果を高める目的で化学療法を同時に行う場合があり、これを「化学放射線療法」といいます。これらの治療法は臨床試験により効果と安全性が確認されており、最も有効性の高い標準治療として採用されています。

放射線治療の目的には、大きく分けて2つあります。
がんの根治を目指す「根治的治療」と、患者さんの症状を和らげる「緩和的治療」です(画像1参照)。放射線治療の適応範囲を考える際には、まず何を目的として治療を行うのかが重要です。

画像 1

 

根治的治療を目的とする「放射線治療」の適応は、がんの種類や病期、進行度によって異なります。手術が困難な場合でも、放射線治療が第一選択となり、根治を目指せるケースも少なくありません(例:子宮頸がんのⅢ期など)。

 また、「化学放射線療法」は、放射線治療と化学療法(抗がん剤)を組み合わせた治療法で、肺がん、子宮頸がん、食道がん、頭頸部がんなどさまざまながん種で用いられます。この治療法では放射線治療単独と比べて副作用は増える傾向にありますが、抗がん剤は主に放射線の効果を高める目的として使われます。

ただし、治療中は一定時間、身体を動かさず仰向けの姿勢を保つ必要があるため、認知症などで一定時間身体を動かさずにいるのが難しい方は、放射線治療の適用が制限される場合があります。

「手術が難しい=治療の選択肢がない」と諦めずに、まずは医師に相談し、ご自身に合った治療方法を一緒に考えていくことが大切です。
緩和的治療としての放射線治療は、ほぼすべてのがん種に適用できます。

例えば、がんが骨に転移して痛みがある場合(転移性骨腫瘍)や、腫瘍による出血が見られる場合など、放射線治療によって痛みの緩和や止血が可能です。症状の緩和を目的とする場合は、がんの種類にかかわらず放射線治療が有効な選択肢となります。


放射線治療を支える専門性豊かな多職種チーム

「放射線を当てる」と聞くと、1人の医師や診療放射線技師が機械を操作しているイメージを持たれるかもしれません。実際の放射線治療は、多くの専門職が連携して進められています。特に、医師、診療放射線技師、医学物理士(※)、看護師が大事な役割を担っています。

放射線治療は、がんそのものを標的とする局所療法です。
まず、「敵を知る」段階として、医師ががんの範囲や性質を正確に把握します。また、「敵を最大限に倒す方法」を検討し、最適な治療法を決定します。
次に、医学物理士または診療放射線技師が、放射線の量や角度など、医師が設定した照射範囲を綿密に計算し、医師とともに治療計画を作成します。これは医師が決定した「敵を最大限に倒す方法」を「正確に実現する」ための放射線の精度管理です。

当院では、この治療計画を医学物理士が担当していますが、医学物理士と診療放射線技師の優劣を示すものではありません。医学物理士は放射線治療装置から照射される放射線を正確に管理します。
一方、診療放射線技師は治療計画に基づき、患者さんが毎回同じ姿勢・位置で照射を受けられるようサポートし、治療の精度を維持しています。照射位置のずれは治療効果の低下や副作用の原因につながるため、この役割は非常に重要です。

最後に、看護師が患者さんに寄り添い、治療中の副作用への対応や精神的なサポートを行い、治療を最後まで続けられるよう支えています。
このように、医師、医学物理士、放射線技師、看護師がそれぞれの専門性を発揮しながら連携することで、患者さんに最適で安全かつ精度の高い放射線治療を届けています。

  •  医学物理士とは?
    放射線治療が安全かつ正確に行われるようサポートする専門職です。治療に使う放射線の量を綿密に計算したり、治療機械が正常に動いているかを定期的に点検したりします。日本ではまだ国家資格ではありませんが、アメリカをはじめ海外では国家資格として認められている国もあります。

納得できる治療を選ぶためにできること

放射線治療は、初めての診察から治療方針の決定、治療計画の作成、実際の照射、そして経過観察まで、段階を踏んで進みます。

治療方針は、まず医師ががんの種類や病期、進行度を診断し、標準治療を中心に、効果が高いと考えられるいくつかの治療方法を検討します。治療は身体への負担や通院のしやすさなど、生活や価値観に関わることも多いため、医師は「おすすめできる治療の優先順位」を整理したうえで、患者さんと話し合いながら決めていきます。

多くのがん専門病院では、内科、外科、放射線治療の担当医や関係する専門職が集まる「キャンサーボード」と呼ばれるカンファレンスが開かれ、患者さんにとって最適な治療方針の話し合いがあります。複数の専門家が意見を出し合うことで、より幅広く効果的な提案が可能になります。一方で、小規模な病院では全ての科の専門医が在職しておらず、キャンサーボードがないこともあり、その場合は治療の選択肢が限られる場合もあります。

もし治療について迷いや不安があるときは、セカンドオピニオン(他の医療機関での意見を聞くこと)を利用して、放射線治療を行う医療機関やがん専門病院に相談してみるのもおすすめします。まずは話を聞くだけで大丈夫です。

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治療を始めるまでの時間は、患者さんにとって精神的な負担が大きくなりやすいものです。
だからこそ、できるだけ早く相談し、治療の選択肢を理解することが重要となります。患者さん自身に十分納得していただいたうえで治療に進めるように、医療従事者が寄り添いサポートする体制を整えています。

後編に続く⇒

最終更新日:令和7年12月17日

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