放射線治療とは? 正しく学んで理解を深めよう(後編)

放射線治療と聞くと、「どんな治療なのか」「痛いの?怖いの?」「副作用は?」など、漠然とした不安や疑問を抱く方は少なくありません。放射線治療は100年以上の歴史を積み重ねてきた標準治療ですが、いまだ内容の理解が不十分という調査報告もあります。
今回は、放射線治療の近年の進化、放射線の特徴、副作用や生活への影響について、駒込病院放射線科治療部の室伏景子部長にききました。

放射線治療はどのように進化してきた?
放射線治療の精度は、この10〜20年で目覚ましく進歩しました。かつての放射線治療は、「がん細胞周りの正常な細胞にも広く放射線が当たるため、副作用が起こりやすい」といったイメージを持たれることもありましたが、現在では「必要な場所に、必要な線量だけ、より正確に照射する治療」へと大きく進化を遂げています。
注目情報技術が進歩した2つのポイント
1. がんの位置をより正確に把握できるようになった
CTやMRI、PETなどの画像診断技術の進歩により、がん細胞の広がりや形を立体的に詳細に把握できるようになりました。
2. 正常細胞への影響を最小限に、がんだけを狙って照射できるようになった
IMRT(強度変調放射線治療)や定位照射などにより、放射線の照射ビームの強度を細かく調整できるようになりました。 これにより、放射線を
がんの形状に正確に合わせることが可能となり(画像2、3参照)、がん周囲の正常な細胞への影響を最小限に抑えることができます。


これらの技術の進歩により、治療効果はより向上し、副作用は大幅に軽減されています。さらに、放射線治療をサポートする専門職の技術も上がっています。
多職種の連携により、チーム体制も強化されたことで、患者さんが安心して治療を受けられる環境が整備されています。(前編参照)
注目情報なぜ複数回に分けて照射を行うの?
放射線治療は、がん細胞のDNA(遺伝子)にダメージを与えて、がん細胞を死滅させます。DNAは2本の鎖が対になった二重らせん構造ですが、2本の鎖が放射線治療によって同時に切れてしまうと、その細胞は修復できずに死滅します。
一方、1本の鎖のみが切断された場合、細胞にはそれを修復する力が備わっています。
ここで重要なのは、「正常な細胞のほうが、がん細胞より修復が早い」ということです。
放射線を一度照射すると、正常な細胞もがん細胞もダメージを受けますが、数時間経つと正常な細胞はある程度回復します。
しかし、がん細胞は回復が遅く、毎日少しずつ放射線を照射することで、正常な細胞はその都度回復しながら生き残り、がん細胞が段階的に弱っていきます。この差を利用しているのが「分割照射」です(画像4参照)。

一方で、最近ではピンポイント照射と呼ばれるような、非常に狭い範囲に強い放射線を当てる治療「定位照射」もあります。
これは、狙う範囲が極めて小さく、周囲の正常な細胞が少ないため、1回から数回の照射で済むことが可能です。
つまり、「分割照射」と「ピンポイント照射」は、それぞれが持つ特徴が異なります。患者さんの病状によって、最も効果的な方法を選んでいるのです。
治療回数や期間は、目的や照射方法によって異なります。例えば、「定位照射」では、1回から数回程度で治療が終わることが一般的です。一方で、抗がん剤と放射線を組み合わせて行う「化学放射線療法」の場合は、30回前後(週5回×約6週間)の治療となります
1回あたりの治療時間も、放射線の種類や方法によって変わります。放射線の強さや角度を細かく調整する「IMRT(強度変調放射線治療)」では20分から30分ほど、定位照射では30分から1時間ほどです。
放射線治療の中でも対応可能な施設が限られている陽子線・重粒子線治療
放射線治療には、X線以外にも陽子線や重粒子線を使用する先進的な治療があります。
これらは、放射線の性質が異なり、がん細胞に高い線量を集中させることが可能なため(線量集中性が高い)、身体への負担を軽減できるのが特徴です。
しかし、大掛かりな治療装置が必要なため、実施可能な医療機関が限られています。さらに、現時点では、保険適用となる疾患が定められています。
放射線治療期間と副作用、日常生活への影響
放射線治療の副作用は、治療する部位や方法によって異なります。よく見られる副作用が、日焼け後のような皮膚の反応です。
その多くは一時的なものであり、自然に回復します。
一方で、治療後しばらく経ってから現れる副作用の「晩期有害事象」は、細胞に生じたダメージは回復しないため、時に有害事象に対する治療が必要となる場合があります。しかし、研究データに基づいた晩期有害事象の発生リスクは、臓器ごとの照射線量と、それに伴って生じる有害事象の程度と頻度を示す指標がガイドラインで示されています。
当院では、治療期間中の注意点をわかりやすくまとめた部位別のパンフレットを看護師が作成し、説明しています。例えば、口の中に放射線を照射する場合は、口内炎が広範囲にできて、酸味や刺激物がしみる場合があります。そのため、食事の工夫やセルフケアの工夫を具体的にお伝えしています。
また、放射線治療単独の場合と比べると、化学放射線療法では血液中の血球数が下がりやすい傾向です。白血球数が減ると感染しやすくなるため、日常生活での感染予防のポイントをお伝えしています。
日常生活や仕事への影響について
放射線治療は外来通院で受けられることが多く、仕事を続けながら通院される方も少なくありません。
「働きながら治療できる」と言われると、 つい無理をして頑張ってしまう方もいますが、実際には、治療の部位や方法によって身体への負担はさまざまです。治療が続く中で、倦怠感や体力の低下を感じ、思うように身体がついてこないこともあります。
治療後の回復には個人差がありますので、焦らずに自分のペースで、少しずつ日常生活や仕事に戻っていくことが大切です。
なぜ放射線治療を選ぶのか?放射線治療の特徴
がん治療には、「手術」「化学療法(抗がん剤)」「放射線治療」の3つの標準治療がありますが、どれか一つが常に最良というわけではありません。「患者さんにとって何が最善か」という観点で組み合わせて選択しています。特に放射線治療には、次のような特徴があります。

- 身体への負担が比較的少ない
放射線治療は、身体への負担が比較的少ないため、多くの場合、外来で通院治療を受けられます。治療中も日常生活を続けやすいのが大きな特徴です。また、高齢者や合併症のある方にも適応できるケースが多いとされています。 - 手術が難しい場所にも対応できる
がんが重要な神経や血管の近くにある場合、手術では完全に切除するのが難しいことがあります。そのような場合でも、放射線治療は身体の深部まで届き、狙った場所に集中して照射できるため、切除が難しいがんに対しても治療の可能性を広げています。
一方、デメリットとしては、手術と違って検体が取れないため、遺伝子診断などができません。また、認知症などで一定時間の安静が保てない方や、転移が広範囲に広がっている場合には適さないこともあります。
近年では、手術、薬物療法、放射線治療を組み合わせた「集学的治療」が進んでいます。それぞれの治療の精度が高まり、副作用などのリスクが減ったことで、複数の治療を安全に組み合わせることが可能になりました。
このような進歩の積み重ねによって、次に取り組むべき課題も見えてきます。例えば、直腸がんの治療では、「骨盤内再発の予防」から「遠隔転移の発生を抑制」へと、治療の目標そのものが進化しています。
医学の進歩では、課題を一つ乗り越えるたびに、次の課題が見えてきます。その積み重ねによって、現在の複合的治療の形が築かれたと言えるでしょう。
医師が伝えたいメッセージ ― 放射線治療を考えるすべての人へ
放射線治療は、100年以上の歴史を持ち、安全性と効果が確かめられ、進歩し続けてきた治療法です。「放射線は怖い」「副作用が心配」という声は少なくありませんが、現在の放射線治療は精度の高い治療へと進化しています。
不安や疑問があれば、どうか一人で抱え込まずにご相談ください。私たちは全国からのセカンドオピニオンや相談を受け付けています。
私たちが目指しているのは、「患者さんや病状に最も適した多種多様な放射線治療を、高い精度と安全性を保ちながら安定的に提供すること」です。そのために、さまざまな専門職が協力しながら治療にあたっています。
がんの治療は多くの選択が迫られ、不安と向き合う時間でもあります。だからこそ、納得して治療を選んでいただくことが何より大切です。「相談してよかった」と感じていただけるよう、私たちは全力でサポートいたします。まずはお気軽にお声がけください。
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最終更新日:令和7年12月18日


