- 概要
診療内容・特色
東京都立多摩総合医療センターに新規移転した当科は東京都立府中病院の時代から30余年の歴史があります。脳神経外科で扱う疾患は、脳卒中をはじめ、救急対応を必要とする場合が多く、365日、24時間の救急体制をとっています。
2016年4月より当院に新たに神経・脳血管内科が開設されました。脳卒中の患者さんに対して外科治療を行う脳神経外科医と内科的管理・治療を行う神経・脳血管内科(脳卒中内科医)、さらに脳血管内治療医の3者でチームを組んで集学的に診療を行います。一般病棟、救命センター、重症系ユニットを含め約30床程度の受け入れが可能です。また慢性期には、すぐに自宅退院できない方の場合には、病態、家庭の状況に応じて回復期リハビリ病院や療養型の病院への転院し、専門のリハビリテーションをうけることができます。さらに2024年からは脳腫瘍手術および神経内視鏡手術にも広く対応可能となりました。
一般外来は、月曜から金曜の毎日午前中に、基本的に予約制で行っています。ご予約の患者様は直接当院予約センターに電話してください。また、地域の各病院、医院と重点的な、医療連携体制をとっており、急を要する場合や、あるいは、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、脳腫瘍などすでに具体的な診断がついていて当科で治療の相談を早めにご希望の患者様の場合も、主治医の先生から直接病院電話交換(TEL 042-323-5111)までお電話いただければ、担当脳外科医が個別に対応いたします。
脳血管障害に対しては、開頭術、血管内治療どちらでも行える(ハイブリッド治療)体制を整えており、患者さんに合わせて治療法を検討します。
取り扱っている主な疾患
脳血管障害
脳動脈瘤
未破裂脳動脈瘤の自然歴については2012年日本脳神経外科学会が主導した研究結果がNew England Journal of Medicineに掲載されています。この結果を踏まえて動脈瘤の部位・サイズから破裂の危険性について提示し治療方針を決めています.未破裂脳動脈瘤に対してはまず血管内コイル塞栓術が可能であればコイル塞栓術をお勧めし、コイル塞栓術のリスクが高いと判断されるようであれば開頭クリッピング術をお勧めしています。くも膜下出血をおこした破裂脳動脈瘤に関しては、血管内コイル塞栓術での治療をまず検討します。当科ではどちらの治療法にこだわるのではなく動脈瘤の部位、サイズ、形状などを検討したうえでよりよい結果を得られるであろう治療法を行っています。また2019年からは大型・巨大内頚動脈瘤に対する「フローダイバーターステント留置術」の治療も開始しています。これまで通常のコイル塞栓術やステント留置術では治療困難であった動脈瘤に対して治療選択枝が広がりました。
脳梗塞を含む脳虚血疾患
脳梗塞発症、再発予防目的に頸動脈内膜剥離術(CEA) 、バイパス術を多数行なっています。手術適応については神経・脳血管内科と相談の上決定しています。
急性主幹動脈閉塞症に対する血行再開通治療
脳梗塞超急性期、発症4.5時間以内であればtPA静注療法の適応になる可能性がありますが、tPA治療が無効な場合、適応禁忌の場合も多くみられます。その場合発症8時間以内であれば脳血管内治療で血流を再開通させることができる可能性があります。急性主幹動脈閉塞症に対する血管内治療の有効性は確立したと言えます。当科では患者さんの機能予後改善のため積極的に急性期血栓回収療法(ステント型血栓回収機器、吸引カテーテル)を行っています。 また超急性期脳梗塞・急性主幹動脈閉塞症に対するtPA静注療法、血管内治療による再開通療法については豊富な経験を有しています。
脳動静脈奇形
脳出血やけいれんをおこすことで発見されることが多い脳動静脈奇形ですが、当科では血管内治療による塞栓術(OnyxやNBCAなど)→開頭手術という2段階での治療を行っています。放射線治療の適応と考えられればガンマナイフやサイバーナイフ治療をご紹介しています。
脳脊髄血管内治療
開頭手術では困難な症例、開頭手術より血管内治療の方がよい結果を得られると考えられる症例に対しては血管内治療を行っています。開頭手術に加えて血管内治療を行うことで当科ではほぼすべての脳血管障害の治療を行うことができます。
- 未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術
- 大型/巨大内頚動脈瘤に対するフローダイバーターステント留置術
- 頚動脈狭窄症に対する頚動脈ステント留置術
- 急性主幹動脈閉塞症に対する再開通治療
- 脳動静脈奇形に対する術前塞栓術
- 頭蓋内硬膜動静脈瘻、脊髄動静脈シャント疾患(動静脈瘻、動静脈奇形など)
脳腫瘍(良性、悪性)
手術技量が特に問われる髄膜腫、聴神経腫瘍をはじめとしたすべての良性脳腫瘍に特に力を入れています。通常のCT、MRIはもちろん、3次元CT、ナビゲーションシステムで手術のシミュレーションを行っています。大脳機能(運動機能、感覚、視覚など)・脳神経機能(視神経、三叉神経、顔面神経、聴神経、嚥下・発声に関係する神経など)温存が必要であれば、手術中電気生理学的モニタリングを併用し、機能温存を目指した摘出術を行っています。科長の太田は術中モニタリングについて豊富な経験を有しています。場合により、術前に血管内手術の手技を用いて、手術中の出血を最少に抑えることで、安全に治療できるようになってきています。さらに2024年から下垂体および頭蓋底腫瘍に対して神経内視鏡による経鼻手術にも注力しています。悪性脳腫瘍については術後の化学療法・放射線治療を杏林大学脳神経外科と相談して方針を決めています。
- 頭蓋底髄膜腫など髄膜腫全般
- 聴神経腫瘍
- 血管芽腫
- 頭蓋咽頭腫
- 脳室内腫瘍
- 下垂体腫瘍(経鼻内視鏡下手術)
- 悪性脳腫瘍
三叉神経痛、顔面痙攀、舌咽神経痛に対する微小血管減圧術
これらは神経を頭蓋内動脈・静脈が圧迫することでおこることが多く見られます。いずれも内服、注射などの治療をまず試すことになりますが、それでもコントロールが難しい場合には患者さんの生活の質を下げてしまうことになります。原因検索のためには頭部MRI検査をおこないますが、頭部MRI検査で神経を圧迫している所見がある場合、根治のためには手術治療が有効なことが多くみられます。(脳腫瘍が原因の場合には腫瘍摘出術が必要になることもあります)
頭部外傷
オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症: HHT)
オスラー病は繰り返す鼻血や肺動静脈瘻、脳脊髄の動静脈瘻、消化管病変など全身性の疾患であり、多くの診療科の関与が必要になります。患者さんは日本に1万人以上いると見込まれていますが、医師や医療関係者にも認知度が低いのが現実で明確な専門家もいない状態が続いています。
当科では脳脊髄の動静脈奇形動静脈瘻はもちろんのこと、肺動静脈瘻に対するコイル塞栓術も行っています。
オスラー病の診断・治療の向上と患者さんへの支援を目的として2013年7月に日本HHT研究会(HHT JAPAN)が創設されました。当院もこの研究会に参加して、オスラー病に対して積極的に関わり患者さんの支援を行っています。
小児脳脊髄血管奇形
小児の脳脊髄血管奇形(動静脈瘻、動静脈奇形、ガレン大静脈瘤、硬膜動静脈瘻等)、他の小児の血管病変すべて(脳動脈瘤、脳梗塞、静脈形成異常、静脈血栓症、 他)、オスラー病についてもコンサルトを受けています。2021年4月より小児総合医療センター脳神経外科で「脳脊髄血管外来」を担当いたします。小学生以下のお子さんについては小児総合医療センターでの予約をお受けいたします。
主な医療設備
- 高性能手術用顕微鏡2台、4K内視鏡、4K外視鏡、手術ナビゲーションシステム、ICGビデオグラフィ、5-ALA術中蛍光撮影
- DSA装置(PHILIPS)
- MRI (3テスラ、1.5テスラ)、ヘリカルCT、SPECT
- 誘発電位記録装置