- 概要
診療内容・特色
※多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科は、整形外科系であるリウマチ外科と、内科系であるリウマチ膠原病内科からなり、必要に応じて緊密に連携して診療を進めております。ここではこのうち、リウマチ外科についてご紹介します。
関節リウマチは関節破壊を主徴とする全身性の炎症性疾患であるため、全身の包括的管理と局所の関節炎の両者の管理が必須となっております。当院のリウマチ膠原病科はリウマチ外科とリウマチ膠原病内科からなっており、緊密な協力の下で診療を行っており、内科的、外科的側面の双方から包括的に管理できる日本でも数少ない診療科であります。
薬物治療の進歩によってタイトコントロールが可能になったリウマチ診療ですが、薬物に対する副作用やアレルギー、重要臓器合併症や経済的理由などにより理想的な治療が行えず、骨破壊、関節変形で機能障害を来している患者さんは今でも数多くいらっしゃいます。そのような患者さんの生活の質を改善させるには手術療法も大事な治療法の一つです。
リウマチ外科医にリウマチ患者さんが治療を受ける利点として
①、リウマチ外科医は骨・軟部組織の脆弱性、関節内、関節周囲の癒着や拘縮に慣れており、単発的に関節リウマチ患者さんの手術を行う医師よりも合併症の頻度が少ない
②、抗リウマチ薬にも精通しており、休薬期間、開始時期をリウマチ外科医が躊躇なく決定でき、患者さんが安心できる
③、入院中も患者さんと疾患活動度、手術部位以外の関節機能障害について会話をすることができる
④、多関節が障害されている場合には、どの関節から手術を行えば機能障害を改善できるかという治療ストラテジーが立てられる
という利点があります。
2020年4月から2021年3月までに集計したDPCデータベースでは、当院のリウマチ手術件数は全国7番目であり、リウマチ特有の骨軟部の脆弱性に習熟している医師が手術を行っております。
手術療法は大きく分けて人工関節置換術と関節形成術があります。軟骨が消失して変形をきたした関節に対しては人工膝関節、股関節、足関節、肩関節(リバース型を含む)、肘関節、指関節置換術を行っております。当院では感染予防のため最高ランクのクリーンルームで人工関節を行っています。
手術の後に、患者さんの疼痛が緩和され関節機能が改善したり、手指、足趾の美容が改善されて患者さんの笑顔を見ることができるのは嬉しいものです。
以下に代表的な症例を供覧します。
1.肩関節破壊に対するリバース型人工肩関節置換術
リバース型人工肩関節は2014年に本邦に導入され、腱板が断裂していても三角筋力で挙上、外転が可能になる機種であり、関節破壊と腱板断裂の両者をきたしやすいリウマチ肩にとっては朗報になっています。永瀬らはリウマチ肩に対するリバース型人工肩関節置換術の中期成績を本邦で初めて英語論文で報告しました。昨今までリウマチ肩に対していい治療法がないと言われてきておりましたが、医療従事者、患者さん双方にとって光明が見えてきており、関節鏡下手術も含め、リウマチ肩の治療方法について情報発信をしております。
2.肘関節破壊に対する人工肘関節置換術
人工膝関節、人工股関節を行う病院は増加傾向ですが、人工肘関節を行う病院は本邦においてもそれ程多くありません。当科の診療責任医長は模擬骨を用いた人工肘関節の手術手技インストラクターも行っており、経験豊富な医師の下で手術を受けることができます。
下図は連結していない機種を用いた人工肘関節であり、骨切除量が少ない利点があります。
3.遠位橈尺関節の破壊、不安定性、手指伸筋腱断裂に対する手関節形成術 (遠位等尺関節固定 + 尺骨骨幹端部の骨切り) + 伸筋腱再建術
遠位橈尺関節の滑膜炎は関節リウマチの好発部位であり、関節包の破綻に伴って伸筋腱断裂が生じると小指、続いて薬指が伸びきらなくなります。このような場合には手関節形成術 (遠位等尺関節固定 + 尺骨骨幹端部の骨切り) + 伸筋腱再建術を行います。
4.人工指関節置換術
- 近年は関節痛のみならず、手指の美容や機能に対して人工指関節を受けられる患者さんも増加傾向です。当院では人工指関節にはシリコン性インプラントを用いています。
5.股関節破壊に対する人工股関節全置換術
前方進入法を用いて術後疼痛が少なくなり、関節リウマチ患者さんに比較的多い術後脱臼も減少しています。
6.膝関節破壊に対する人工膝関節全置換術
関節リウマチによって、骨粗鬆症や屈曲拘縮が著しい症例に対しても人工膝関節を行なっています。
7.足関節の破壊に対する人工足関節置換術
最近はtrabecular metalという構造を持った人工足関節で骨セメントを使用しなくても手術ができるケースが増えています。
8.リウマチ前足部変形に対して外反母趾変形矯正術+ 関節温存中足骨短縮骨切り術
足趾変形をきたしたリウマチ患者さんもいまだに多くいらっしゃいますが、関節温存を併用した足趾の変形矯正術はここ10年で世界にも浸透し、当院でも10年以上の経験の上で行っております。
リウマチの疾患特異性から周術期の合併症が多くなりがちですが、入院中に合併症が起きた場合には入院専属のリウマチ膠原病内科医や他科と緊密な連絡を取り、合併症に対して迅速で適切な対応を取ることが可能であり、安心した医療を提供できているのも当科の特徴になっております。
地域における関節リウマチ治療の一助になれればと思っており、ご興味のある患者さんはリウマチ外科外来へいらして頂けると幸いです。
(文責 2022/8月 永瀬 雄一)