見えない臓器の働きを可視化する ~放射性同位元素を使った核医学の世界~

目に見えない臓器の働きを安全かつ正確に観察できる!?

タイトル

核医学検査で「からだの働き」を見える化する

病院の検査といえば、レントゲンやCT、MRIを思い浮かべる方が多いでしょう。これらは体の「形態」を映す検査です。

一方で核医学検査は、体の中で起こる「機能」を映し出すことができます。
たとえば心臓の血流、脳の代謝、骨の変化や甲状腺の働きなどを調べる際に用いられます。

微量の放射性同位元素を含む薬を体に取り入れ、その放射線を特殊なカメラで検出して画像化します。
これにより、目に見えない臓器の働きを安全かつ正確に観察できるのです。

放射性同位元素とは?

「放射性同位元素(ほうしゃせいどういげんそ)」とは、同じ元素でも原子核の中の中性子の数が異なるために、不安定で放射線を出しながら他の元素に変わる性質をもつ原子の集まりのことです。

たとえばヨウ素には、安定した「ヨウ素127」と、放射線を放つ「ヨウ素123」「ヨウ素131」があります。
核医学ではこれらを“トレーサー(追跡子)”として用い、体内での分布を観察することで臓器の働きを可視化します。

自然界にもある放射性同位元素

私たちが日常的に口にする食べ物にも、ごく微量の放射性同位元素が含まれています。
たとえば、バナナや海藻に含まれるカリウムの一部は「カリウム40」という放射性同位元素です。

また、地殻や岩石に広く分布するストロンチウムの中には、「ストロンチウム90」という放射性同位元素もあります。ストロンチウムはカルシウムに似た性質をもち、土壌や水を通じて植物に吸収され、食物連鎖を経て私たちの体にもわずかに取り込まれています。これらは特別なものではなく、地球が誕生したときから存在する “地質の記憶”ともいえる存在です。

地質学の視点から見ると、放射性同位元素は地球の内部構造や岩石の年代を知る手がかりにもなります。
たとえば、ストロンチウムには安定同位体と放射性同位体の両方があり、その比率を調べることで、岩石がいつ形成されたのか、どの地域の鉱物がどこへ運ばれたのかを推定できます。つまりストロンチウムは、「地球の時間を語る時計」でもあるのです。
このように、放射性同位元素は自然界にも人間の体にも微量に存在し、核医学はその“自然の性質”を医療に応用しています。

検査のしくみと安全性

核医学検査では、放射性同位元素を含む薬剤を注射やカプセルで体内に取り入れます。
薬は血流に乗って全身を巡り、特定の臓器に集まるよう設計されています。

たとえば、甲状腺の検査にはヨウ素123、骨の検査にはテクネチウム99mなどが使われます。
これらの放射性同位元素は短時間で体外に排出されるよう工夫されており、安全性が高いのが特徴です。
国際放射線防護委員会(ICRP)や日本核医学会によると、核医学検査で受ける放射線量は日常生活で受ける自然放射線量と同程度か、それ以下です。

世界では毎年数千万件の核医学検査が行われていますが、健康被害の報告はほとんどありません。

半減期と「体から消える速さ」

放射性同位元素は、時間の経過とともに放射線を放ちながら自然に減っていきます。
放射能の量が半分になるまでの時間を「物理的半減期」と呼びます。たとえば、テクネチウム99mの半減期は約6時間です。さらに、体内での代謝や排泄によって薬が体外へ出る速さを「生物学的半減期」といいます。

これらを合わせた「実効半減期」は、体内で放射能が半分になるまでに要する時間を示す指標です。核種によりますが核医学検査で使われる放射性薬剤の実効半減期は数時間から数日程度と短く、検査後に放射能が体内に残る心配はほとんどありません。

放射線と数学の関係

放射性同位元素の減り方は「指数関数的」という数学の法則に従います。
多いときは早く減り、少なくなるとゆっくり減る――これは、コーヒーが冷める速さや香水の香りが時間とともに薄れていくような、自然界によく見られる変化と同じです。
核医学は、この自然の法則を医学に応用し、目に見えない体の変化を放射線で“可視化”しています。

終わりに ― 放射線は医療と科学を支えるエネルギー

「放射線」と聞くと、不安を抱く方もいるかもしれません。

しかし、核医学で使われる放射性同位元素は、自然界に存在する放射線と同じ原理を応用した医療技術であり、安全性は科学的に確立されています。検査に使用される放射性物質はごく微量で、短い半減期のため体内に長くとどまらず、すぐに排泄されます。

さらに、核医学検査は国際基準に基づいて厳密に管理され、放射線を扱う医師・技師が専門知識をもって安全に行っています。


核医学は、放射線を「正確に測り、正しく使う」科学の成果です。放射性同位元素の特性を理解し、安全に応用することで、がんや心臓病、脳疾患などの早期発見・治療に大きく貢献しています。

放射線は怖いイメージがあると思いますが、科学的理解と適切な利用によって人の健康を支える重要なエネルギーなのです。


最終更新日:令和8年3月6日

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