ホスピス・緩和ケア病棟の役割と、家族を支える緩和ケア
前回は、緩和ケアが「最期の医療」ではなく、生活を支える医療であることを紹介しました。今回は、緩和ケアの象徴ともいえるホスピス・緩和ケア病棟、そして家族への支援について掘り下げます。
東京都立荏原病院
緩和ケア内科 井原 世尊 医長

ホスピス≠「死を待つ場所」
緩和ケア病棟、ホスピスと聞くと、怖いイメージを持っている方はいませんか?
患者さんの中にも、「ホスピスだけは行きたくない」といおっしゃる方がいます。
ホスピス=死という漠然とした怖いイメージや、「死を待つ場所」というネガティブなイメージを持つ方がいらっしゃるようです。
実際はそんな暗いところではまったくありません。
ちなみに、ホスピスと緩和ケア病棟はほぼ同じ意味です。病院の中にあるところは、緩和ケア病棟とよぶところが多いです。一方でホスピスは完全に独立した緩和ケアに特化した病院であることが多いです。近年、病院型ホスピスと住宅型ホスピスと二つの似て非なるホスピスが存在しますので、注意が必要です。後ほど説明いたします。
ホスピスの原点は「もてなしの場所」
ホスピスの語源ですがラテン語でhospitium、これは「人をもてなす場所」という意味です。
11世紀中世ヨーロッパで、聖地エルサレムを訪れる巡礼者たちが旅の途上で病気や疲労で倒れたとき、当時の修道院が一夜の宿を貸したり、食事を提供したり、あるいは看取るなどしていました。宗教的ケア、寄り添う、ともに悲しむ、ともに祈ることが中心で、これが始まりとされています。
1900年にはロンドン東部で「死を迎えようとしている人々」を受け入れる家が作られ、1967年にはシシリー・ソンダース医師が「聖クリストファー・ホスピス」を開設。ソンダース医師により、寄り添う、祈るだけでなく、薬を用いた症状コントロールの必要性が初めて提唱され、11世紀から続いていたホスピスは、“宗教的な場”から“医学的ケアの場”へと進化しました。
“死を待つ”から“さいごまで生きる”へ
この理念は、現代の緩和ケアの根幹となっています。
日本のホスピスは市民の力で生まれた
日本で最初のホスピスは1981年の聖霊三方原病院です。
1984年にホスピスを開設した淀川キリスト教病院は、開設にあたり市民から2億円の募金が集まりました。集中治療室(ICU)などが医療者側の必要性から生まれたのに対し、緩和ケア病棟は市民の要望と支援から生まれた医療なのです。
緩和ケア病棟は「何もしない場所」ではない
よくある誤解に「緩和ケア病棟では治療をしない」というものがあります。
これは大いなる誤解です。
抗がん剤など“病気そのものを治す治療”は行いません。
しかし、血液検査、レントゲン検査、点滴など、つらい症状の緩和に役立つ治療はおこないます。
要するに、苦痛を増やす治療はしませんが、苦痛を和らげQOLを改善する治療は積極的に行います。
「ホスピス」の名前に注意
近年、「ホスピス」を名乗る施設が増えていますが、これには注意が必要です。
- 病院型ホスピス・緩和ケア病棟
医師・看護師が常駐
緩和ケアに精通するスタッフが常駐 - 住宅型ホスピス(住宅型有料老人ホーム)
医師は訪問診療、看護師は訪問看護
医療の質にばらつきがあることもあります。
ホスピスという名前でも、提供される医療の内容は一様ではありません
どちらにも良さがあり、自分や家族など大切な人に合った場所を選ぶことがとても大切です。
家族も緩和ケアの対象
緩和ケアは患者本人だけのものではありません。
がん患者の家族の2~3割に強い不安や憂鬱がみられると言われています。
家族が抱える問題は多岐にわたります。
- 不安・いらいら・落ち込み
- 介護の負担
- 家族内の役割の変化
- 経済的な負担
- 子どもへの説明
- 仕事との両立など
精神的なつらさが2週間以上続く場合は、専門家に相談することが推奨されています。
家族が支えられることで、患者さんも安心して過ごせることができます。
緩和ケアは、家族全体を支える医療といえます。
「緩和ケアを受けたい」と言っていい
病気になったとき・・・
「つらいけれど、相談してよいのかわからない」
「まだ治療中だから、緩和ケアは早い気がする」
そのように感じている方もいるかもしれません。
しかし、からだや心の苦痛を和らげる治療やケアがあります。
緩和ケアは“あきらめ”ではありません。
苦痛を和らげ、治療と自分が望む生活を両立していくためのケアです。
苦痛を緩和して、自分らしい時間を取り戻したいと思われたとき、「緩和ケアを受けたいです」と遠慮せずに言ってください。
緩和ケアは、誰かに許可されて受けるものではありません。
あなたが望んだときに受けられる医療です。
最終更新日:令和8年5月27日


