悪性リンパ腫に使われる最新の免疫療法について
悪性リンパ腫の治療は、この数年で大きく進歩しています。
なかでも注目されているのが、患者さん自身の免疫細胞を利用するCAR-T細胞療法です。
従来の抗がん剤治療では治らなかった患者さんでも、長期寛解や治癒を目指すことができる治療として、標準療法の一つになっています。
CAR-T施行施設は国内で100施設近くまで増えてきており、初回再発時点で検討される治療へと位置づけが変わってきています。
東京都立駒込病院
腫瘍内科 下山 達 部長
腫瘍内科| 東京都立駒込病院 | 東京都立病院機構(tmhp.jp)
CAR-T療法とは何か
CAR-T療法は、患者さん自身のリンパ球(T細胞)を体外へ取り出し、がん細胞を見つけて攻撃しやすいように遺伝子改変を加え、再び体内に戻す細胞免疫療法です。
CARとは「キメラ抗原受容体」のことで、T細胞に新たな“がんを見分ける力”と“攻撃のスイッチ”を持たせるイメージです。これにより、通常のT細胞では十分に働きにくい場面でも、がん細胞を狙って反応しやすくなります。
血液がん領域では、B細胞性リンパ腫の表面にあるCD19などを標的にしたCAR-T製剤が実用化されています。
抗体薬や抗がん剤とは異なる仕組みで効果を発揮し、さらに体内で増殖して働く点が特徴です。
そのためCAR-T療法は、「1回の点滴」によって、体の中に新しい免疫反応を継続的に起こさせることが出来ます。



悪性リンパ腫でCAR-T療法が注目される理由
悪性リンパ腫は、80種類近く病型がある血液がんです。進行が早いタイプもあれば、比較的ゆっくり経過するタイプもあり、治療方針は病型ごとに大きく異なります。そのなかでCAR-T療法が特に期待されているのは、再発・難治性のB細胞性悪性リンパ腫です。
現時点では、悪性リンパ腫に対するCAR-T製剤として、イエスカルタ、キムリア、ブレヤンジが承認されています。
製剤ごとに適応は異なりますが、
主に大細胞型B細胞リンパ腫や濾胞性リンパ腫が対象で、ブレヤンジではマントル細胞リンパ腫や辺縁帯リンパ腫まで適応が広がっています。
- 2026年時点で主な対象になる病型
・再発・治療抵抗性の大細胞型B細胞リンパ腫
・再発・治療抵抗性の濾胞性リンパ腫
・再発・治療抵抗性のマントル細胞リンパ腫
・再発・治療抵抗性の辺縁帯リンパ腫
以前は「最後の手段」に近いイメージで語られることも多かった治療ですが、現在はエビデンスの蓄積により、病型や再発の時期によってはより早期の治療が検討される時代に入っています。
既存の化学療法で病勢制御が難しいリンパ腫に対して、治癒を目指せる可能性のある治療に位置づけとなっています。
CAR-T療法の効果はどのくらい期待できるのか
CAR-T療法は、すべての患者さんに同じように効く治療ではありません。
しかし、これまで治療が難しかった再発・難治例において、深い奏効が得られている点が大きな特徴です。
CD19 CAR-T細胞療法は、再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)において、これまでの治療成績を大きく改善した治療法として確立されています。主要な国際共同臨床試験(ZUMA-1、JULIET、TRANSCEND NHL001)では、3次治療以降の患者を対象として、奏効割合53~83%、完全奏効割合39~58%が報告されました。また、完全奏効を達成した患者の一部では長期寛解が維持され、5年時点でも約40%の患者が生存していることが示されており、少なくとも一部の患者においては治癒の可能性が示唆されています。
さらに近年では、初回治療後早期再発例や治療抵抗性例を対象とした第III相試験(ZUMA-7、TRANSFORM)において、CAR-T細胞療法は従来の救援化学療法+自家造血幹細胞移植を上回る成績を示しました。これらの試験では奏効割合83~87%、完全奏効割合65~74%が報告されており、高リスク再発DLBCLに対する新たな標準治療として位置づけられています。
これまで治癒が難しいと考えられていた再発・難治性DLBCLにおいても、CAR-T細胞療法の登場により、長期生存や治癒を目指せる時代になりつつあります。
再発・難治性濾胞性リンパ腫に対しても、CAR-T細胞療法は極めて高い有効性を示しています。主要な臨床試験では、奏効割合86~97%、完全奏効割合69~94%という優れた治療成績が報告されており、多くの患者で深い寛解が得られています。
さらに、長期追跡においても寛解の持続が確認されており、一部の患者では長期にわたり病勢が制御される可能性が示されています。
適応や期待される効果は病型や治療歴によって異なりますが、CAR-T細胞療法は悪性リンパ腫に対する免疫療法のなかでも、すでに実臨床において重要な位置を占める治療法となっています。従来は治癒が困難と考えられていた再発・難治例に対しても、長期寛解、さらには治癒を目指し得る治療選択肢として期待されています。
効果について押さえておきたいポイント
・再発・難治性のB細胞性悪性リンパ腫で保険適応となっている
(大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫 )
・約半数の患者さんでは長期寛解が維持され、治癒に至る可能性も示されている。
CAR-T療法の流れ
CAR-T療法は、外来で簡単に受けられる治療ではありません。専門施設で、多職種が連携しながら慎重に進める必要があります。
- 紹介・受診
まずは主治医からCAR-T療法実施施設へ紹介され、病型、全身状態、これまでの治療歴などをもとに適応が評価されます。 - リンパ球採取(アフェレーシス)
専用の装置を用いて、CAR-T細胞の材料となるT細胞を採取します。
- 製造
採取した細胞は製造施設へ送られ、遺伝子改変と培養が行われます。製剤が完成するまでの目安は約4~6週間です。 - ブリッジング
製造期間中に病勢が進まないよう、必要に応じて化学療法や放射線治療を行います。 - リンパ球除去化学療法
CAR-T細胞が体内で働きやすくなるよう、投与前に前処置として抗がん剤治療を行います。 - CAR-T細胞の投与
完成したCAR-T細胞を点滴で投与します。投与後は副作用の有無を慎重に観察します。一般的には約1か月程度の入院が必要です。 - 退院後のフォローアップ
治療効果の判定と、長期的な副作用の確認を行います。
遠方の患者さんでは、紹介元の医療機関と連携しながら経過をみていくこともあります。
治療の流れを簡単にまとめると…

主治医から専門施設へ紹介
↓
T細胞を採取
↓
製造施設でCAR-T細胞を作製
↓
必要に応じてブリッジング治療
↓
前処置の化学療法
↓
CAR-T細胞を投与
↓
入院下で慎重に経過観察
↓
退院後も継続してフォロー
副作用は?「免疫療法だから安全」とは言い切れない
CAR-T療法は現在も極めて高額な治療です。
ただし、「治療費○○万円」と単純に説明すると誤解を招きやすいため、総医療費と実際の自己負担額を分けて考える必要があります。
国内の公表データによると、CAR-T細胞製品の投与に関連する総医療費は数千万円規模に達します。
しかし、アフェレーシス(細胞採取)、ブリッジング療法、リンパ球除去療法、CAR-T細胞投与などは保険診療として実施されます。
さらに、日本では高額療養費制度を利用できるため、多くの場合、患者さんの実際の自己負担額は所得区分に応じた自己負担限度額までに抑えられます。
一方で、食事療養費や差額ベッド代などは保険適用外であり、別途負担が必要になる場合があります。
実際の負担額は年齢、所得、加入している医療保険、入院期間、医療機関の体制などによって異なるため、詳細は治療を受ける施設の相談窓口で確認することが重要です。
注目情報費用について知っておきたいポイント
・CAR-T療法は非常に高額な治療である
・ただし保険診療の対象である
・高額療養費制度が利用できる
・実際の自己負担額は年齢や所得で異なる
・食事療養費や差額ベッド代は別途必要になることがある
2026年時点の最新情報として押さえておきたいポイント
2026年時点で押さえておきたいのは、CAR-T療法が「最後の手段」から、「病型によっては早期から検討される治療」へと位置づけが変化していることです。
特に大細胞型B細胞リンパ腫では、第2ラインの治療としてCAR-T療法が標準治療の一つとなっており、再発・難治性濾胞性リンパ腫においても有力な治療選択肢として確立されつつあります。
さらに、国内の「最適使用推進ガイドライン」では、ブレヤンジ®の適応としてマントル細胞リンパ腫や辺縁帯リンパ腫も示されており、CAR-T療法の対象となる疾患は広がりつつあります。
一方で、CAR-T療法はすべての患者さんに適応されるわけではありません。病型、再発時期、全身状態、これまでの治療歴、病勢の進行速度、治療開始までの時間的余裕などを総合的に評価する必要があります。
そのため、CAR-T療法が選択肢となる可能性がある場合には、まず主治医と十分に相談し、必要に応じてCAR-T実施施設への紹介を受けることが重要です。
注目情報2026年版として特に強調したい点
・CAR-T療法は再発・難治例に対する重要な選択肢になっている
・病型によっては第2ラインから検討される
・適応となるリンパ腫の種類が拡大している
・高額だが保険診療と高額療養費制度の対象である
・治療には専門施設での総合的な管理が必要である
まとめ
CAR-T療法は、悪性リンパ腫に対する免疫療法のなかでも、2026年現在もっとも実臨床で存在感を増している治療の一つです。患者さん自身のT細胞を改変してがんを狙う先端医療でありながら、すでに国内では複数製剤が承認され、病型によっては治療の早い段階から検討される時代に入っています。
ただし、効果が期待できる一方で、副作用管理や施設要件、治療までの準備期間など、知っておくべきポイントも少なくありません。
CAR-T療法を正しく理解するには、「夢の治療」として過度に期待するのでも、「最後の手段」として遠ざけるのでもなく、最新の適応と現実的なメリット・リスクを踏まえて判断することが大切です。
参考文献・参照元
・国立がん研究センター中央病院 CAR-T細胞療法のご案内
・日本造血・免疫細胞療法学会 1. CAR-T療法とは
・日本造血・免疫細胞療法学会 3-7. CAR-T細胞療法の成績
・日本造血・免疫細胞療法学会 6-2. 実際にかかる平均的な費用と概要
・PMDA 最適使用推進ガイドライン(再生医療等製品)
最終更新 令和8年6月17日


