オーラルフレイル予防のためのトレーニング
都立多摩南部地域病院 リハビリテーション科
言語聴覚士 植村聡子
近年、「オーラルフレイル」という言葉が広く知られるようになってきました。
加齢に伴い、口の機能が衰えることで食べる力や飲み込む力が弱まり、結果として全身の虚弱につながる状態を指します。
食べることは生きることそのものです。
だからこそ、口の健康を守ることは、健康寿命を延ばし、日々の生活を豊かにするための大切な取り組みだと感じています。

オーラルフレイルは、ある日突然起こるものではありません。
口の筋肉のわずかな衰え、舌の動きの鈍さ、飲み込みの力の低下など、日常の中で気づきにくい変化が積み重なって進行していきます。
手足の筋肉と同じように、口や舌、のども筋肉で動いています。使わなければ弱り、鍛えれば強くなる。
この当たり前の事実を、私たちは意外と忘れがちです。
口の周りを動かすことの意味
口の機能を保つためには、まず口周りの筋肉をしっかり使うことが欠かせません。
口を大きく開けたり閉じたりする動作、唇を突き出したり引いたりする動作、頬を膨らませたりへこませたりする動作など、どれも一見すると簡単な運動です。
しかし、これらの動きは食べ物を取り込む力、噛む力、飲み込む力を支える基盤となっています。
特に印象的なのは、スプーンやペットボトルを唇だけで支えるトレーニングです。歯を使わずに唇だけで物を保持することで、口輪筋がしっかり働きます。
口輪筋は食べ物をこぼさずに取り込むために重要な筋肉であり、衰えると食事の際に口元が緩みやすくなります。
日常の中で簡単に取り組める運動でありながら、効果は大きいと感じます。






舌は「見えない筋肉」―だからこそ意識が必要
舌は、私たちが思っている以上に複雑で力強い筋肉です。
食べ物を口の中で運び、飲み込むための形を作り、発音にも関わる多機能な器官です。
しかし、普段は意識することが少なく、気づかないうちに動きが鈍くなっていることがあります。
舌の位置が低くなってしまう「低位舌」は、口呼吸やポカン口の原因となり、口腔内の乾燥や飲み込みのしづらさにつながります。
舌が上あごにしっかり収まっているかどうかは、健康の小さなサインです。
舌を前に出したり引っ込めたりする運動、上下左右に動かす運動、頬の内側を押す運動など、舌をしっかり使うことで、飲み込みの力や発音の明瞭さが保たれます。



興味深いのは、舌の力を簡易的に測る方法として、市販のお菓子を舌と上あごで潰せるかどうかを目安にするという考え方です。
舌圧は数値で測ることもできますが、日常の中で必要最低限と言われる20キロパスカルあるのか、自分で確かめる方法があると、トレーニングのモチベーションにもつながります。







のどの力を保つことは、誤嚥を防ぐことにつながる
のどの筋肉は、飲み込みの最終段階を担う重要な部分です。
ここが弱ると、誤嚥のリスクが高まり、肺炎などの重大な健康問題につながります。
口を大きく開ける開口訓練や、唇を横に引く「のどイー訓練」は、のどの奥の筋肉をしっかり使うための基本的な運動です。
また、おでこを手で押さえながら顎を引く運動や、顎の下にペットボトルを挟んで押し上げる運動は、首周りの筋肉を使いながら飲み込みの力を高める効果があります。
これらの運動は、見た目には地味ですが、継続することで確かな変化を感じられるものです。
舌を前に突き出したまま唾液を飲み込む「ベロだしごっくん体操」は、飲み込みの動作を強化するユニークな方法です。
普段とは違う姿勢で飲み込むことで、のどの筋肉がしっかり働きます。




呼吸と姿勢も口の健康を支える
口の機能は、呼吸や姿勢とも深く関わっています。
腹式呼吸や口すぼめ呼吸は、呼吸の質を高めるだけでなく、口周りの筋肉を自然に使うことにつながります。吹き戻しや吹き矢のような遊び感覚の運動も、楽しみながら口の機能を鍛えることができます。
姿勢の悪さは、飲み込みの力を弱める原因になります。
首や胸郭のストレッチ、姿勢の意識化は、口の機能を支える土台づくりです。食事の際に背筋を伸ばすだけでも、飲み込みのしやすさが変わります。

「1日1分」から始めるオーラルフレイル予防
口の健康を守るための運動は、どれも特別な道具を必要としません。大切なのは、無理をせず、痛みがあれば中止し、自分のペースで続けることです。1日1分でも、毎日続けることで確かな変化が生まれます。
オーラルフレイルは、誰にでも起こり得る身近な問題です。しかし、日々の小さな習慣で予防することができます。食べることを楽しみ続けるために、口・舌・のどの元気づくりを生活の一部として取り入れていきたいものです。

(令和8年7月9日開催「Tokyoヘルスケアサポーター養成講座×東京みんなでサロン」『予防しよう!オーラルフレイル』より)
最終更新日:令和8年7月16日


