子どもの心が揺れているーいま、社会全体で向き合うべき課題(前編)
都立小児総合医療センター
児童・思春期精神科 長沢 崇
近年、子どもの心の問題が社会的な関心を集めています。
不登校の増加、いじめの深刻化、SNSでのトラブル、そして自殺に至る子どもたち。
これらは決して一部の子どもや家庭だけの問題ではなく、社会全体で向き合うべき大きな課題です。
子どもの心は大人と同じではありません。
身体が成長するように、心も発達の途上にあり、環境の影響を受けやすいことも特徴です。
世界では10〜20%の子どもが精神的な不調を抱えているとされ、精神疾患の半数は14歳までに発症すると言われています。
つまり子ども時代は、心の健康にとって非常に重要な時期であり、早期の気づきと支援がその後の人生を大きく左右します。

子どもたちの「幸福度」が示すもの
国際連合児童基金(UNICEF)が発表した子どもの幸福度ランキングでは、日本は36カ国中14位という結果でした。身体的な健康度は1位と高い一方で、精神的な健康度は32位と低く、若者の自殺率は対象国の中でも上位に位置しています。
この結果は、日本の子どもたちが身体的には健康である一方で、心の健康には課題を抱えていることを示しています。
実際、子どもたちの中には「不安を感じる」「孤独を感じる」「生活に満足していない」といった声が多く聴かれます。「イライラしてしまう」「暴れてしまう」「死にたい気持ちになる」――このような悩みを抱える子どもは珍しくありません。



子どもを取り巻く環境は大きく変化している
現代の子どもたちは、社会の急速な変化の中で、これまでとは異なるストレスを抱えています。
● 社会の変化
少子高齢化、人口減少、情報化社会、SNSの普及、AIの進展、不安定な国際情勢、災害の増加など、社会全体が大きく揺れています。
● 家庭の変化
共働き世帯の増加、ひとり親家庭の増加、貧困問題、生活保護世帯の増加、児童虐待の増加など、家庭の負担も大きくなっています。
● 学校の変化
1人1台端末の環境が整い、情報量は飛躍的に増えました。特別支援教育の対象者が増え、外国籍の子どもも増加しています。子どもたちは、多様な価値観や情報に触れる機会が増えています。
このような環境の変化は大人たちにも影響しますが、心が発達途上にある子どもたちに与える影響は少なくありません。


不登校は「特別な子」の問題ではない
不登校の小中学生は全国で35万人と過去最多になりました。10年前と比べると、小学生は5.3倍、中学生は2.2倍に増えています。東京都では中学生の13人に1人が不登校という状況です。


不登校の背景はさまざまです。学業のプレッシャー、友人関係の悩み、家庭の問題、SNSでのトラブル、発達特性、心の不調など、複数の要因が絡み合っています。
欠席期間を見ても、欠席日数30~89日程度の不登校だけでなく、半年以上学校に行けない子どもも増えています。
また高等学校における不登校にも留意が必要です。


不登校は単なる「怠け」や「わがまま」ではありません。子どもが発している大切なメッセージであったり、SOSのサインの可能性があります。

いじめ・暴力の増加 ― 子ども同士の関係が揺れている
近年いじめの認知件数は増加傾向にあり、いじめ重大事態の件数も増えています。
いじめの内容は、からかい、仲間はずれ、暴力、SNSでの誹謗中傷など多岐にわたります。
暴力行為も増加しています。小・中・高等学校における暴力行為は全国で前年度から約2万件増えました。
特に「生徒間暴力」が多く、子ども同士の関係が不安定になっていることがうかがえます。
家庭内暴力も増加しており、小学生から高校生まで幅広い年代で認知件数が増えています。
児童虐待も増加し、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待など、深刻なケースが後を絶ちません。








後編に続きます⇒
(令和8年5月27日開催 都立小児総合医療センター 児童・青年期臨床精神医療講座【基礎編】より)
最終更新日:令和8年7月17日


