2001年10月号 憂鬱な季節

2001.10月号

 街に金木犀の香りが漂い、本格的な秋に入って参りました。一年中でいちばん爽やかな季節だというのに、4年ほど前から私にとっては憂鬱な季節になってしまいました。
 皆様ご存じのように、数年前から歯科にも卒直後研修医制度(1年間)が導入されました。制度が発足して歴史が浅いため、受け入れ先の環境やカリキュラムに、ばらつきが顕著であるのが現状です。
 当科では平成10年度から研修医を受け入れるようになりました。保存、補綴、口腔外科に加えて障害者歯科や有病者歯科も学べる上に、医科の研修医と同じ待遇であるため、給与は全国でも非常に高い部類に入ります。このため、たった一人の募集枠に沢山の若者が応募いたします。
 毎年6月頃から、夏休みや臨床実習の合間を縫って、いろいろな大学から当科に見学者が訪れます。はるばる北海道や鹿児島からもやって来ます。病院近くに宿をとって見学に来る学生も少なくありません。2度、3度と見学に来る人さえいます。良い歯科医になるため、自分の将来を真剣に考えていることを肌で感じます。皆、まじめで熱意のある若者ばかりです。日本と日本歯科界の将来も、決して暗いものではないと思えて来ます。私が都知事だったら、みんな採用してあげたいです。
 毎年11月初旬に面接による選考があります。私の憂鬱の種です。市川医長と私に加えて副院長や事務局長までもが参加して、複数で選考に当たります。足手まといになるのではなく、少しでも戦力となってほしいので、選ぶわれわれも必死です。依怙贔屓は全くありません。社会への大事な一歩を左右することになるのです。昨年は過去最高の14倍となってしまいました。たった一人を落とすのなら容易なのですが、たった一人しか採用できません。辛い選考が終わった後は精神的にへとへとです。
多数の中から選んだ人に間違いはありません。教えたがりのわれわれ常勤3人が、自分に甘く、人には厳しく、手取り足取り熱心に指導します。教える者が一生懸命働いている姿を見せることこそが、いちばんの教育になるとも考えています。同年代の医科研修医の働きぶりを目の当たりにできることも、当院で学ぶメリットの一つです。プロの医者になるべく、夜昼なく患者さんのケアに当たる彼らの姿を嫌でも見せつけられます。余暇が少なく、歯科の研修医にとって非常に密度の濃い1年間です。
 昨年度の研修医は日大松戸出身の青木謙典君でした。積極的で優秀な若者でした。非常に稀な、結核性リンパ節炎症例について学会発表までいたしました。幸いなことに、2年目の今年、当科と同様の条件でNTT関東病院の研修医として送り込むことができました。本年度は日大出身の竹生(たこう)康一郎君です。補綴の筋が非常によい、まじめでねばり強い若者です。
手塩にかけた研修医の研修期間はわずか1年、あっという間です。彼らの進路について考えることが、私のもう一つの憂鬱です。いずれ近い将来に、卒直後研修は義務化されると聞いております。若者にとって、歯科医になることが魅力的に映るよう、教育的にも経済的にも研修環境の速やかな整備が望まれます。
 歯科医の数が少ない、のんびりした頃に免許が取れて本当によかったです。

 P.S.:当院のホームページで研修医の詳しい募集要項をご覧になれます。

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