2003年8月号 全国死亡事故調査

2003.8月号

 昭和49年、私が歯科麻酔科大学院2年生の時のことです。当時の教授がある企画を思い立ちました。不幸にして歯科治療中に患者さんが亡くなってし まった症例を調べ、それらに何か共通点がないかを分析しようというものでした。事がことだけに積極的に呼びかけて症例を募るわけにもゆきません。全国の歯科医師会宛に調査の趣旨を書いた手紙を送り、協力を呼びかけたのでした。
 十数カ所の診療所が調査インタビューに応じてくれました。そのほとんどが地方の医院でしたので、私を含む若手の医局員は旅費をもらい、手分けして調査地に散りました。亡くなった患者さんについての質問事項は、事前に細々と検討して決めてありました。得られたデータを分析したところ、共通項がありました。
 全ての患者さんがその医院に初診であり、浸潤麻酔後に亡くなっておりました。既往歴の聴取は行われておらず、なぜ麻酔注射を打たなければならないかの説明もなされていないままの、いきなりの注射でした。
 この30年ほど前の分析結果を知って以来、術者と患者さんの初めての出会いである初診時が重要だと認識しました。当科が原則として埋伏智歯の抜歯をはじめ、普通の抜歯でさえも初診では行わないようにしているのも、このためであります。
 われわれ歯科医は歯を抜きたくて抜いているのではありません。が、胃ガンは消化器外科の先生に「切ってもらった」と表現する患者さんが多いのに、歯は歯 医者に「抜かれた!」と被害者意識いっぱいに表現されることが少なくありません。なぜ抜かなければならないかの事前説明が不充分であるからだと考えます。

P.S.:今年度の日本歯科医師会生涯研修セミナーの講師の一人に選ばれました。これも城南7歯科医師会会員の先生方のご支援の賜物と感謝しております。既に茨城、福島、愛知県と講演して回り、7月末には沖縄に参ります。連携医の方々から紹介された珍しい症例を交え、「有病 者治療の基礎」について2時間。行く先々で好評をいただいております。9月28日には市ヶ谷の日本歯科医師会館大講堂でお話しさせていただきます。佐野がどんなナリをしているか確かめてみたい先生方、お暇であればご声援下さい。

歯科コラム