2003年1月号 知っておくと何かと便利、失活抜髄法

2003.1月号

 明けましておめでとうございます。本年も荏原病院ならびに当科をよろしくお願いいたします。平成8年2月にコラムの連載を開始して、今年で8年目に 突入いたします。先々号から「連携便り」に再連載されるまでの2年間、本コラムは当院ホームページにのみ掲載されておりました。ホームページ版のバックナンバーへは文末にお示しする方法でアクセスできます。埋伏智歯抜歯後に出血を来たして長期に入院せざるを得なかった症例/智歯抜歯の際に根が口腔底に迷入、市川医長が見事に取り出した症例/私見・歯科において事故に至る方程式/蜂窩織炎?実は結核性リンパ節炎でした/忘れ得ない逆紹介患者さん、等々が掲載されております。

 今月はいわゆる“神経を殺す”方法、ヒ素を使う失活抜髄法です。麻酔抜髄法全盛の現在、本法は歴史的遺物のような存在に なりつつありますが、症例によっては未だに有用な場合が少なくありません。例えば下顎大臼歯の抜髄の際、歯髄まであと少しのところまで切削してゆくと患者さんが痛がり、麻酔を追加しても完全な無痛が得らないことがあります。どうしても歯髄処置を完遂してしまいたい!。このようなときに私は本法を適用することがあります。
かいつまんで術式をご紹介します。わずかにでも露髄するところまで軟化象牙質の追求を行い、少量のネオアルゼンブラック(主成分三酸化ヒ素)を窩底に貼付します。仮封は封鎖性の良いセメントで厳重に行います。咬合痛予防に、咬合は確実に落としておくことが肝要です。本剤を齲窩に留めておくのは貼付してか ら48時間以内が原則です。72時間を越えてはならないとされておりますので、次の約束には必ず来院してもらうよう説明が必要です。再来時には不思議と無 麻酔で歯髄処置が可能になっています。‘毒’を歯髄に塗ったりしたらひどく痛むのでは?とご心配なさる方もいらっしゃると思いますが、当初自発痛があった としても、冠部歯髄が失活するにつれて消退して参ります。念のため、鎮痛剤を頓服で処方しておくとよいでしょう。
大学の歯科麻酔科にいた頃、局麻剤アレルギーが濃厚に疑われる患者さんの抜髄を依頼されたことがありました。上顎左側の犬歯に齲窩があり、自発痛はない ものの抜髄が必要でした。たった1本の抜髄のために全身麻酔・・・・?。患者さんにちょっとだけ我慢してもらい、露髄直前まで齲窩を削ってネオアルゼンブラックを貼付しました。二日後には無痛で歯髄の残骸を除去でき、患者さんならびにご紹介の先生から喜ばれました。
ヒ素:ご存じのように関西地方では、隠し味としてカレーに混ぜられたりもする毒物ですが、使いようによっては良薬になり得るというお話でした。本剤につ いて興味のある先生は、夕方5時以降に私にお電話下さるか、所属歯科医師会の長老(少なくとも50歳以上)にお尋ね下さい。

(注)歯科のコラムホームページ版アクセス法;
平成15年11月より、荏原病院ホームページ(http://www.ebara-hp.ota.tokyo.jp)→「各部門紹介」→「歯科・口腔外 科」のページから「歯科のコラム」をご覧になれるようになりました。また、連携医の先生方は、従前どおり「連携医用ページ」からもリンクできるようになっ ております。

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