2010年7月号 魔法のくすり

2010.7月号

 連携医の先生から、ある患者さんをご紹介いただきました。40代の女性が歯の痛みを訴えているが原因が判らない、レントゲンで虫歯もないとのことです。たまたま時間の空いていた非常勤Dr(研修医OBの竹生先生)に診察をお願いしました。自分も診療をしながら聴き耳をたてていると、上顎大臼歯の咬合痛が下にも前歯にも広がるとおっしゃり、とにかく「先生、痛いんです」の繰り返しです。とりとめのない話を聞き、「難しい患者さんですまない、竹生先生…」と心の中で謝っていました。そのうち、何やら処方せんを携えて患者さんは診療室を退出されました。

私「何か薬を出したの?」
竹生「処方に魔法をかけておきました」
私「やったな!」

 いつもより丁寧に注意深く説明しているようでしたが、いわゆるプラセボを用いたわけです。偽薬と訳され、プラセボ効果は「気のせい」や「心のもちよう」という漠然としたものでしたが、現在では、明らかに脳内に機能的な変化が起きる現実の現象であることが理解されています。効果を増強させるためにはいくつかのポイントがあります。1.医師によるポジティブなコメント(共感・献身・支持などを表現する)2.環境(清潔な診療室、スタッフの態度、大病院)3,患者の個性(前向き思考、治療の指示を守る)これらが相互に作用するわけですが要は患者さんの信頼を最大限に引き出すことが大切であり、これはプラセボに限ったことではなく、もちろん治療効果が証明されている治療法にも効果的です。そして、患者さんを欺くような治療を行うべきではなく、使用には、倫理的、道徳的配慮が必要です。
さて、翌週です。

私「この前の患者さんどうだった?」
竹生「すっきりしたそうですよ」

お互いにハイタッチをしたことは言うまでもありません。


(注)参考文献「プラセボ反応と治療反応:両者はどのように関連しているか?」クインテッセンス4月号,2010

歯科コラム