2006年11月号 唇を閉じると見えないから?

2006.11月号

 「長期入院したら、歯茎が腫れ、虫歯が増えて、口の中が荒れ果ててしまった。」、「特養ホームにショートステイしていた間、部分入れ歯を外されていた。家 に戻ったら残存歯が微妙に動いてしまって入らなくなった。」等々、病院の歯科にいると、このような訴えの患者さんにしばしば遭遇します。あまりにも一般人 や医療関係者、介護に携わる人々の歯科への理解のなさ、関心の薄さに呆然とさせられます。よい医療・きめの細かい介護を受けられるはずの場で、口腔内に注意が払われていない事例が多いのです。レストランで汚れたお皿を出されたら大騒ぎする人が、歯垢をべっとりと付けたまま毎晩眠りについています。
 医学部や看護学校で歯科は必修ではありません。勤務時間の不規則なドクターやナース達に歯周病の方々が少なくありません。歯磨き粉の使いすぎ、電動歯ブラシの乱暴な使い方からくさび状欠損の歯も目立ちます。歯学部学生時代、隣接医学の講義は身を入れて聴かなかったことで、我々歯科医は全身的合併症を有する患者さんへの対応に及び腰です。おあいこですか。正しい歯ブラシの使い方を知らない看護師さんは、患者さんの口腔ケアを適切に行えません。自分が使った直後のデンタルフロス、歯間ブラシの臭いを医療関係者に一度でいいから嗅いで欲しいです。
重症で長期入院している患者さんの歯磨き・入れ歯の手入れが特に問題です。数日磨かないで放置されるだけで歯垢が口腔内に停滞して歯周病が悪化するのに、 口が身の回りの世話に入っていないのです。他の器官と比べ、口腔内は唇を開けば見える分、手入れしやすいのですが。
 日々の診療に追われていますが、看護師さんや患者さん向けに口腔ケア講演会を開き、病棟に出向いての入院患者さんの口腔ケアも地道にしています。 8020は語呂のよい標語ですが、虫歯だらけの上、歯茎の腫れがひどい状態では苦痛の方が大きく、多く残っていればよいというものではありません。日本歯 科医師会は政治家に大金を献上するより、地道な啓蒙に力を入れて欲しいです。
P.S.:昨年3月まで昭和大学口腔外科教授でいらした大野康亮先生が、毎週木曜日に当科を手伝って下さっています。先生とは大学院時代にゼミが一緒の仲 良しでした。口腔癌から難抜歯に至るまで、我々の目から鱗が何枚も落ちる木曜日です。大野先生ファンだった連携医は多いと思います。ご指名で患者さんをご紹介なさりたい方は直接当科までお問い合わせ下さい。顎変形症の外科的対応をお望みの矯正歯科の先生方には特にお勧めです。

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