2002年3月号 忘れがたい逆紹介の患者さん・その2

2002.3月号

 先月号から続きます。
 玉川歯科医師会の上川会長(当時)はこの患者さんの訪問診療を担当していただく先生として、二子玉川駅近くの小川利男先生をご推薦下さいました。ある土 曜日の午後、小川先生と私は患者さんの家でお会いしました。見るからに優しそうで、笑顔のほっとする先生でした。
 患者さんを治療する上での問題点について、先生に説明しました。気管切開で気道は確保されているので、口腔内の虫歯を切削するなどの治療を行っても、異物が詰まって呼吸困難に陥る危険性はないこと。例え人工呼吸器が故障しても家族の方がその扱いには慣れているので心配はないこと、等々です。患者さんは ベッド上で上体を起こしているので、上顎の歯を治療する際には、術者はかなり苦しい姿勢を強いられそうでした。初日の顔合わせは口腔内の診察を行いまし た。次の診療日にも私は立ち会わせてもらいました。小川先生は美人の歯科衛生士さんを伴い、玉川歯科医師会館から借り出した重いポータブル切削器具を持っていらっしゃいました。同業者の治療を間近に見る機会は余りありません。先生の治療はソフトで非常に手際よく、衛生士さんとの息もピッタリと合っていて参 考になりました。自分が虫歯だったら先生にかかりたいと思いました。
 患者さんの顔の前には、普段は小型のノートパソコンが据え付けられています。スティックを口にくわえてキーボードを打ち、インターネットに接続していろ いろな情報に触れたり、執筆したり、メールを打ったりなさるのです。受傷後、長い間頸部を固定されていたため、首の周囲がこわばって動かせない状態でし た。硬くなってしまった首をわずかに動かしてスティックを操作できるようになるまでに、何と1年間のリハビリを要したそうです。気管切開をしているために、当初は発声ができず、自分の意志を伝えることが非常に困難でした。インターネットという、社会との接点を手にしてからの患者さんは、全く動けないにも かかわらず、実に行動的になりました。私ともメールの交換をするようになり、彼が医学関係の雑誌に執筆した記事も読ませてもらいました。当院ホームページ に連載中の私のコラムも読んでもらいました。落馬事故で彼と同じような状態になった俳優、クリストファー・リーブ(スーパーマンを演じた)の本「車椅子の ヒーロー」も彼
から借りて読みました。
 小川先生の訪問診療はその後も続き、数ヶ月後に治療が終了したとのメールが届きました。歯科に訪問診療制度というものがあることをご存じなかったので、 歯科治療を受けることをあきらめていたそうです。家にいながら、歯科医院での治療と全く同じものを受けることができた。ブラッシング法も家族がマスターした結果、以前より格段に口腔内が爽やかになったとの、喜びのメールでした。仲介しただけではありましたが、私も非常にうれしく、小川先生ならびに適任者を ご推薦下さいました上川会長に心から感謝申し上げます。
 次号で患者さんから届いたメールのうち、忘れられない記事をぜひともご紹介したく思います。

 P.S.:4月よりの診療報酬改定に伴い、当院が積極的に推し進めております副主事医制度(紹介患者さん同伴で当院にお ける治療参加)について、算定できるようになりそうです。詳しくは4月にお手元に届く当院「連携便り」の歯科の欄をご覧下さい。

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