2005年7月号 フランスパンが命の分かれ目

2005.7月号

 数年前のことです。大森の歯科連携医から40歳代の女性患者さんを紹介いただきました。
 ある日、昼食でフランスパンをかじったところ、右上臼歯から目や頭にかけて激痛が走ったのだそうです。その後、持続的な頭痛に加えて悪寒と嘔吐が出現し、夜は38℃の発熱がありました。翌朝、症状は軽くなりましたが右眼奥の重い感じは取れません。風邪かと思い、内科、眼科と受診しましたが原因がわかり ません。耳鼻科で上顎洞のチェックも異常はなく、三叉神経痛疑いでカルバマゼピン(テグレトール)までも出されましたが、痛みは消えませんでした。発症して20日ほどで右眼瞼下垂が生じ、次第に目の焦点が合わなくなりました。ここで冒頭の歯科連携医を受診、抗菌剤を数日投与されましたが症状に改善がみられず、当科に至ったのでした。

 急患係は市川医長でした。口腔内を診、パントモもチェックしましたがわれわれの守備範囲に異常は見当たりません。右眼瞼下垂が気になります。当科は脳外科、神経内科と一緒のDブロックにあります。直ちに脳外科の土居、岩間医長に診察を依頼しました。
 MRIから左右の内頸動脈瘤とわかりました。右はすでに破裂し、くも膜下出血を来していました。右眼に症状が出ていたのは左動脈瘤が動眼神経を圧迫して いたためでした。即日脳外科に入院、翌日右内頸動脈瘤に対しクリッピング手術が行われました。翌月には左内頸動脈瘤に対してもオペが行われ、入院後約1ヶ月で後遺症もなく退院できました。

 突然の頭痛、嘔気、嘔吐がくも膜下出血の特徴とされていますが、出血発作が小さいと頭痛が軽度で、見過ごされることも多いそうです。本症例のように発熱することもあり、風邪と考えて内科を受診したり、動眼神経麻痺を伴う場合は眼科を受診することが少なくないそうです。稀に、このようなケースがございます。歯科連携医の皆様、「何か変だ!」と感じたら、念のためお声掛けください。
 いつも急患には即応してくださる脳外科の日頃のご支援と、今回の資料ご協力に深く感謝いたします。

 P.S :最近、紹介状を手に予告なしで当科を受診する急患が増えています。予告なしの急患が入りますと、長時間お待たせしたり、大混乱を来たします。緊急を要する患者さんは即応いたしますが、直前で結構ですので必ず電話するようご指導ください。また、急を要しない場合は予約専用電話(5734-5489)で予約を取るようご指示ください。

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