【公開講座ダイジェスト!】大腸がんについて(リハビリテーション科からのおはなし)

がんのリハビリテーション——手術前から始める「プレハビリテーション」の重要性

がんと診断された瞬間、多くの人が治療のことだけで頭がいっぱいになります。手術や薬物療法がどのように進むのか、どれほど身体に負担がかかるのか、不安は尽きません。しかし、治療の成功には「治療そのもの」だけでなく、「治療に向けて身体を整える準備」が大きく関わっています。この準備こそが、近年注目されている プレハビリテーション(術前リハビリテーション) です。

がんのリハビリテーションは、診断直後から始まる「自分らしく生きるための医療」です。手術や薬物療法による身体への影響を最小限にし、体力を維持・向上させることで、家事や仕事など日常生活を早期に取り戻すことを目的としています。

1.リハビリテーションの考え方は「術後」から「術前」へ

かつてのリハビリテーションは、手術後に合併症が起きてから対応する「後追い型」が主流でした。肺炎や筋力低下などが発生してからリハビリテーションを開始するため、回復に時間がかかり、入院期間が長くなる傾向がありました。

しかし現在は、治療の質を高めるために「先回り型」へと大きく変化しています。手術前の元気なうちから介入し、体力を高めておくことで、術後の合併症を防ぎ、回復スピードを向上させることが可能になりました。

プレハビリテーションは、まさにこの新しい考え方の中心にあります。 「合併症が出てからのリハビリテーション」から「合併症を防ぐためのリハビリテーション」へ。 治療の前に体を整えることで、術後の生活が大きく変わります。

2.呼吸リハビリテーション 術後肺炎を防ぐ最強の武器

手術後に最も注意すべき合併症のひとつが 肺炎 です。手術直後は痛みや麻酔の影響で呼吸が浅くなり、痰が肺に溜まりやすくなります。痰が停滞すると細菌が増殖し、肺炎を引き起こす原因になります。

  • 術前に呼吸法を身につける意味

    術前の呼吸トレーニングには、次のような効果があります。
  • 注目情報深い呼吸を維持できるようになる
    注目情報痰を自力で押し出す力がつく
    注目情報術後の肺の膨らみが良くなる
  • 腹式呼吸や呼吸訓練器(インセンティブ・スパイロメーター)を使った練習を術前に行うことで、術後の肺炎リスクを大きく下げることができます。
  • 最重要事項:禁煙

    呼吸リハビリの中でも特に重要なのが禁煙です。
    喫煙は気道の炎症を引き起こし、術後の合併症リスクを劇的に高めます。 

  • 禁煙することで、肺の状態が改善し、術後の回復が大きく変わります

3.筋力トレーニングと有酸素運動——「貯筋」が回復の鍵

手術は身体にとって大きな負担です。手術侵襲(ダメージ)によって体内の筋肉は分解されやすくなり、術後は筋力が低下します。だからこそ、術前に筋力と持久力を高めておくことが重要です。

  • なぜ運動が必要なのか

  • 術前に体力を蓄えておくことで、次のようなメリットがあります。

    注目情報術後の筋力低下を最小限に抑えられる
    注目情報早期離床がスムーズになる
    注目情報退院後の生活が早く安定する

推奨される運動

有酸素運動:週150分程度の中等度の運動(早歩きなど)
筋力トレーニング:週2〜3回、スクワットなど無理のない範囲で継続

「貯筋」は術後の生活を支える大切な資産です。散歩や軽い筋トレを習慣化するだけでも、術後の回復が大きく変わります。

4.手術後の早期離床——世界標準の回復プロトコル

手術後はできるだけ早くベッドから離れる「早期離床」が世界的な標準となっています。

ERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プロトコルでは、術後24時間以内に座る・立つ・歩くといった動作を開始することが推奨されています

早期離床には次のような効果があります。

注目情報筋力低下を防ぐ
注目情報腸の動きを活発にする
注目情報血栓症のリスクを下げる

術前にリハビリテーション内容を理解しているからこそ、術後もスムーズに動き出すことができます。

プレハビリテーションは術後の回復を加速させるための準備でもあります。

5.チーム医療がプレハビリテーションを成功させる

プレハビリテーションは運動だけで成り立つものではありません。
医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、歯科医師・衛生士など、多職種が連携して患者さんを支えます。

  • 注目情報栄養管理で体力を維持
  • 注目情報口腔ケアで術後肺炎を予防
  • 注目情報理学療法士が運動を指導
  • 注目情報看護師が生活面の不安をサポート
  • 病院全体がチームとなり、手術前から患者さんをバックアップすることで、治療の質が大きく向上します。

6.自分らしく生きるために——リハビリテーションを味方にする

がん治療は身体だけでなく心にも負担がかかります。
プレハビリテーションは、治療を乗り越えるための「身体づくり」であると同時に、「自分らしく生きるための準備」でもあります。

リハビリテーション科は、患者さんが安心して治療に臨み、一日も早く住み慣れた場所での生活に戻れるよう全力でサポートします。


(2026年7月18日荏原病院公開講座「大腸がんと診断されたら」より)

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