2026.1月号歯科口腔外科
長谷川 士朗(はせがわ しろう)
<最近の虫歯事情>
令和の時代に入って、未成年の虫歯は確実に減少していますが、35歳以降ではあまり減っていません。高齢者においても多くの歯が残るようになったため、昔よりも虫歯は増えています。先日参加した学会のセミナーで最近の虫歯の病因論をアップデートさせていただきましたので、復習したいと思います。
人間は微生物と良好な関係で共存しており、「マイクロバイオーム」という細菌叢を形成しています。腸内細菌が良い例ですが、同じように口腔内にもたくさんの細菌が存在し、虫歯や歯周病の原因菌もいれば身体を守ってくれる細菌もいます。その中に糖質や炭水化物を分解することにより酸を生成し、虫歯の原因となる悪玉菌が存在します。この悪玉菌だけを減らすにはどうしたらよいのか、ということですが、強力な消毒剤は善玉菌も排除してしまうことになり、一方ブラッシングは選択性がありません。悪玉菌も常在菌ですから存在そのものを無にすることはできないので、悪玉菌だけが増殖できないようにすると考えますと、悪玉菌の好物である発酵性糖質を除去することが目標になります。悪玉菌は酸性環境になると善玉菌を抑えて活発に増殖しますので、悪玉菌が善玉菌よりも増殖し口腔マイクロバイオームが乱れる前にプラークを除去することが大切です。(数年前の、食後30分以内のブラッシングは避けた方がよいという情報は間違いです)
そしてもう一つの対策はフッ化物の応用です。日本は砂糖消費量が世界平均より少ないのに虫歯が多い理由に、フッ化物の使用頻度が少ないことが考えられます。それでも1988年頃よりフッ化物配合の歯磨剤の市場シェアが拡大したことと歯科医師数の増大により子供の虫歯は減少しました。フッ化物は歯面表層の再石灰化を促進してくれますが、日本の歯磨剤はフッ素症のリスクを考慮し濃度が若干抑えられています。海外旅行の際にはお土産に歯磨剤の購入もお勧めです。
現在エビデンスレベルの高い虫歯予防法は「1日2回以上のフッ化物配合歯磨剤によるブラッシング」ですが、そのココロは毎日のブラッシングで悪玉菌のエサとなる発酵性糖質を除去するとともに、悪玉菌が増えかけたプラークを除去して善玉菌主体の細菌叢に戻すことが目的になります。

