2026.5月号歯科口腔外科
齋藤 浩人(さいとう ひろと)
その痛みは本当に顎関節症か?
「患者さんの主訴が顎の痛みなので顎関節症ですね。」——研修医に問診を任せると、こんな返事が返ってくることがあります。実際、多くは顎関節症で間違いありませんが、その中に見逃してはいけない疾患が紛れていることがあります。
顎関節症の特徴は、噛む・口を開けるといった“動かしたときの痛み”です。逆に、じっとしていてもズキズキと痛む場合は少し注意が必要です。例えば耳の炎症であれば顎運動で痛みはあまり変わらず、三叉神経痛では「ビリッ」と走るような短時間の痛みが繰り返されます。さらに気をつけたいのが、夜間に痛みが強い、徐々に開口障害が進行する、しびれが出てきた、発熱や全身倦怠感を伴うといった所見があれば、顎関節症として経過観察するのではなく、一歩踏み込んだ評価が必要です。炎症性疾患や腫瘍性病変、さらには心血管系疾患に伴う関連痛など、見逃すと問題となる病態が潜んでいる可能性があります。
ポイントはシンプルで、「動かしたときだけ痛いのか」「安静時にも痛いのか」をまず分けて考えること、そして“いつもと違う”と感じる所見を見逃さないことです。
顎関節症は頻度の高い疾患だからこそ、診断が惰性的になりがちです。「これは本当に顎関節症か」と一度立ち止まる習慣が、診断の質を高めます。紹介状の診断名に引きずられるのではなく、自らの問診と診査に基づいて判断する。その大切さを、研修医にも日頃から伝えていきたいと考えています。
4月から昭和医科大学卒業の優秀な歯科臨床研修医1名が入局いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

