がんサポートチームにおけるソーシャルワーカーの役割
―経済的負担を軽減し、安心して治療を続けられる社会をめざして―
東京都立荏原病院がんサポートチーム
ソーシャルワーカー 鈴木香織
がんと診断された瞬間、患者さんの生活は大きく変わります。身体的な痛みや治療への不安だけでなく、家庭のこと、仕事の継続、人間関係、そして経済的な心配など、日常生活のあらゆる場面に影響が及びます。こうした「社会的苦痛」に寄り添い、患者さんとご家族が安心して治療に向き合えるよう支えるのが、ソーシャルワーカーの役割です。
■ 社会的苦痛とは何か
社会的苦痛には、次のような問題が含まれます。
- 経済的な問題
- 仕事上の問題
- 人間関係の悩み
- 相続に関する不安
- 家庭内の問題
がん治療は長期にわたることが多く、これらの問題が複雑に絡み合うことで、患者さんの心身の負担はさらに大きくなります。
特に医療費の負担は、治療の継続に直接影響する重要な課題です。
■ 経済的な不安が治療を妨げる現実

医療費の負担が心配で、治療を途中で断念してしまうケースが少なくありません。
治療を受けたい気持ちがあっても、生活費や家族の負担を考えると、治療に対して躊躇してしまうことがあります。
ソーシャルワーカーは、こうした状況を少しでも軽減するために、利用できる制度や支援を案内し、必要な手続きにつなげる役割を担っています。
■ 医療費を軽減する制度
- 注目情報高額療養費制度
- 1か月(1日〜月末)に支払った医療費が一定額を超えた場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合に、申請することで、その超えた部分の金額が支給されます。
年齢や所得に応じて自己負担限度額が決まっており、申請することで負担を軽減することができます。 - 注目情報限度額適用認定証
- 入院や通院で医療費が高額になりそうな場合、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができる証書です。
- 事前に交付される限度額認定証を窓口で提示されることで、窓口での支払いを限度額までにおさえるという方法があります
- 注目情報限度額適用・標準負担額減額認定証
- 低所得者(住民税非課税等)に該当される方で入院や通院による1か月の医療費が自己負担限度額を超えそうな場合、窓口での支払いを金額までとする証書のことです。
- ◎入院が決まった時点など、あらかじめ手続きをしておくことが必要です。加入されている保険窓口で手続きをしてください。
■ 医療費(入院費用)の具体例
制度を利用した場合の負担額がどれほど変わるのか、具体例を見てみます。
- 注目情報50歳男性・大腸がん手術(社会保険加入)
- 例) *社会保険加入 月の標準報酬月額45万
- 大腸がん(結腸がん)の手術で10日間入院。
- 自己負担
- ・保険証を利用しない場合→10割負担で約150万前後
- ・社会保険加入→3割負担で45万~50万
- ・高額療養費を申請した場合本人の負担→9万~10万円
- プラス食事代(1食550円)食事を約1万~1万5千円として、医療費と食事代金合わせて11万~12万の支払いになります。
- 注目情報75歳女性・直腸がん手術(後期高齢者医療)
- 例)*後期高齢医療保険 住民税課税世帯
- 大腸がん(直腸がん)の手術で10日間入院。
- 自己負担
- ・保険証を利用しない→10割負担で約170万くらい
- ・後期高齢医療保険利用(1割負担)
- →57,600円(医療費の上限額)+食事代(1食550円)になります。
- 食事を約1万~1万5千円として、医療費と食事代金合わせて7万前後の支払いになります。
- この方の場合は、課税世帯ですので、限度額認定証は発行されず、非課税世帯の場合は、さらに申請することで安くなります。
■ オンライン資格確認で手続きがよりスムーズに
近年は、マイナンバーカードや資格確認証を使ったオンライン資格確認が導入されている医療機関が増えています。入院時に同意するだけで自己負担限度額までの請求となり、限度額適用認定証の提出が不要になります。
制度を利用するための手続きが簡略化され、患者さんの負担がさらに軽減されます。
■ 保険外負担について
医療費の中には保険適用外となるものもあります。
- 食事代
- 診断書などの文書料
- 差額ベッド代
- 日用品(おむつ・パジャマ・ボディクリームなど)
また、医療費の計算は 「ひと月ごと」「医療機関ごと」「診療科ごと」 に行われるため、複数の医療機関を受診している場合は注意が必要です。
■ ソーシャルワーカーが支えるもの
ソーシャルワーカーは、患者さんが必要な治療を受け続けられるよう、必要な制度を見極め、適切な資源につなぐ役割を担っています。医療費の負担が生活を圧迫し、家族まで疲弊してしまうことがないよう、患者・家族が望む暮らしを実現するお手伝いをします
「必要な治療を受けられること」「生活が成り立つこと」 この両方を守るために、患者さんとご家族に寄り添いながら支援を行っています。
■ 困ったときは相談してください
医師や看護師に相談していただければ、必ずソーシャルワーカーにつないでもらえます。
医療機関の患者・地域サポートセンターには相談窓口がありますので、治療や生活に関する不安を気軽にお話しください。

*令和8年7月現在の情報です。
(2026年7月18日荏原病院公開講座「大腸がんと診断されたら」より)


