骨粗鬆症は「気づいた瞬間からの対策」が未来の骨折を防ぎます
荏原病院 薬剤科 松井秀晶
私たちが日々の生活の中で骨の健康を意識する機会は多くありません。
痛みがなければ問題ないと思いがちですが、骨粗鬆症は静かに進行し、気づかないうちに骨が弱くなっていることがあります。
背骨や大腿骨近位部の骨折は生活の質を大きく損ない、歩行能力の低下や介護の必要性につながることもあります。
しかし、骨粗鬆症を早期に発見し、適切な治療と生活習慣の改善を組み合わせることで、骨折を大幅に減らすことができます。
◆ 骨粗鬆症とはどんな病気か
骨粗鬆症は、骨の量が減ったり、骨がもろくなったりすることで骨折しやすくなる病気です。
健康な背骨は密度が高く、内部の構造がしっかりしていますが、骨粗鬆症になると「穴だらけ」の状態になり、尻もちなど健康な人では骨折しないような弱い衝撃でも骨折しやすくなります。
背骨が徐々に潰れていくこともあり、気づかないうちに身長が縮んだり、背中が丸くなったりすることがあります。
骨粗鬆症には生まれ持った体質だけでなく、年齢や食事、運動習慣、薬の影響など、さまざまな要素が関係しています。

◆健康寿命を守るために骨折予防が欠かせません
日本人の平均寿命は延び続けていますが、健康上の問題で日常生活に制限のない期間である「健康寿命」との差は依然として大きいままです。 女性では平均寿命87.09歳に対し健康寿命は75.45歳、男性では平均寿命81.05歳に対し健康寿命は72.57歳です。 この差を縮めるためには、骨折を防ぐことが非常に重要です。
介護が必要となる主な原因では、
「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」に次いで、「骨折・転倒」 が3番目に多くなっています。
骨折は単なるけがではなく、その後の生活の自立度を大きく左右する重大な出来事です。特に大腿骨近位部骨折は、寝たきりや要介護状態につながることが多く、予防の重要性が強調されています。
◆ 骨代謝とは?
骨は常に「壊す」と「作る」を繰り返しています。 古い骨を壊すことを「骨吸収」、新しい骨を作ることを「骨形成」といいます。「骨吸収」は破骨細胞が、「骨形成」は骨芽細胞がその役割を担っています。
「骨吸収」と「骨形成」の繰り返しのことを「骨代謝」といい、 このバランスが崩れ、壊す力が強くなりすぎたり、作る力が弱くなったりすると、骨密度が低下し、骨粗鬆症が進行します。
年齢とともに骨形成の力は弱まり、閉経後の女性では、女性ホルモン(エストロゲン)の影響で、骨吸収が急激に進むことが知られています。
骨代謝のバランスを整えることが、骨粗鬆症治療の基本です。
◆ 骨粗鬆症治療薬にはどんな種類があるのか
骨粗鬆症治療薬には、大きく分けて「飲み薬」と「注射薬」があります。
- ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸、リセドロン酸など)
破骨細胞の働きを抑え、骨を壊すスピードをゆるやかにします。
- ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸、リセドロン酸など)
- 活性型ビタミンD3製剤(エルデカルシトール、アルファカルシドール)
腸でのカルシウム吸収を促進します。 - カルシウム製剤(アスパラ-CAなど)
骨の材料となるカルシウムを補います。
飲み薬は比較的続けやすい一方、骨を強くするスピードは注射薬よりゆるやかです。
◆ 注射薬はより早く骨を強くします
骨粗鬆症治療薬の中でも、注射薬は骨を強くするスピードが速く、骨折リスクが高い患者に優先的に使われます。
注射薬は3つのタイプに分類されます。
○骨形成促進薬
骨を作る力を高める薬です。
テリパラチド/アバロパラチド
- 毎日、週1回、週2回投与の製剤があります。
- 投与期間には上限があり、テリパラチドは24か月、アバロパラチドは18か月で終了します。
- 毎日投与の製剤と週2回投与の製剤は自己注射のため、使い方を覚える必要があります。
- 背骨の骨折予防効果が高いとされています。
○骨吸収抑制薬
骨を壊す力を抑える薬です。
デノスマブ
- 半年に1回、病院で注射します。
- 投与期間の上限がありません。
- 中止後に骨密度が低下するので、治療の継続が重要です。
- 背骨と太ももの骨の骨折予防効果が高いとされています。
ゾレドロン酸
- 1年に1回、病院で点滴します。
- 投与期間の上限はありません。
- 腎機能が低下している患者には不向きな薬です。
- 背骨と太ももの骨の骨折予防効果が高いとされています。
○骨形成促進・骨吸収抑制薬
骨を作る力を高める作用と、骨を壊す力を抑える作用の両方をもつ薬です。
ロモソズマブ
- 1ヶ月に1回、病院で注射します。
- 投与期間は12ヶ月です。
- 1年以内に心臓や脳の血管の病気にかかった患者には使用しません。
- 背骨と太ももの骨の骨折予防効果が高いとされています。
注射薬の特徴をまとめると...
- 骨形成促進薬:骨を作る力を高める
- 骨吸収抑制薬:骨を壊す力を抑える
- 骨形成促進・骨吸収抑制薬:骨を作る力を高め、骨を壊す力を抑える
注射薬は飲み薬よりも早く骨を強くするため、骨折リスクが高い方に適しています。
◆ 骨粗鬆症治療は「続けること」が大切
骨粗鬆症の薬は一生続けるとは限りませんが、自己判断で中止することは危険です。
治療を続けるかどうかは、骨密度や骨折リスクを見ながら、主治医と相談して決めていきます。
◆ よくある質問とポイント
飲み薬と注射薬の違いは?
注射薬は飲み薬よりも早く骨を強くすることができます。
薬ごとに特徴があり、身体への負担は飲み薬と注射薬という違いだけでは一概にいえません。また、通院頻度や費用にも違いがあります。
テリパラチドのデメリットは?
- 注射後に吐き気や頭痛などの副作用が現れることがあります。
毎日投与、週2回投与の製剤では、自己注射の方法を覚えていただく必要があります。週1回投与の製剤では、毎週の通院が必要です。
また、投与期間は24か月までと決まっているため、終了後は別の薬に切り替えて治療を継続します。
- サプリメントは必要?
カルシウムやビタミンDは食事から摂ることが基本です。
摂りすぎは心臓血管の病気のリスクが高まる可能性があるため、使用を希望される場合は、医師や薬剤師に相談することが大切です。
◆骨折は「予防できるリスク」です
骨粗鬆症の重症度が高い方は、今は元気でも近い将来骨折するリスクが高い状態です。
そのような患者には、飲み薬ではなく、注射薬ですみやかに骨を強くすることが必要です。
東京都には多くの医療機関があり、骨密度検査や専門的な治療を受けられる環境が整っています。
骨折は健康寿命を縮める大きな要因ですが、適切な治療と生活習慣の改善で確実に予防できます。
◆ まとめ
- 骨粗鬆症は静かに進行する
- 軽い衝撃でも骨折することがある
- 骨代謝のバランスを整えることが治療の基本
- 注射薬は飲み薬より早く骨を強くする
- 治療は自己判断で中止しない
- 食事・運動・薬物療法を組み合わせることが重要
- 都民の皆さまは、早めの検査と相談が大切
骨は一生の健康を支える大切な土台です。
今日からできることを積み重ね、未来の骨折を防いでいきましょう。
(令和8年8月27日(木)開催 東京都立荏原病院公開講座「骨粗鬆症公開講座 2026」より)


